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霊視的なあれの話③

 むかし、友人らとの集まりに向かうため、電車に乗ったときのこと。
 当時は埼玉と栃木の境あたりに住んでいて、日光にも各停で一時間ほどで行けるような立地だった。そのためか、電車内には観光帰りと思しき人の姿もちょくちょく見受けられていた。
 座席はすべて埋まり、車内はぼちぼちと混んでいた。夕方を過ぎ、窓の外は夜の帳が下りだしていた。わたしはドアの脇に立ち、運よく空いている席はないかと見渡した。そうして、ふと、近くに座るカップルの姿に目を止めたのだ。
 奇妙なカップルだと思った。女が席に座り、男がその膝に座るようなかっこうになっている。女は男の両肩から両手をまわし、男を抱えるような体勢をとりながら男の顔を覗き込んでいた。男は女に構うことなく携帯をいじっている。よく見るとイヤホンすらつけていた。
 混んでいるから二人でひとつの席を使っている、ちょっとアレなカップルだろうかとも考えた。だがその場合でも位置が逆ではないだろうか。男が席に座り、その膝に女が座るかっこうをするのではないか。そう考えながら、わたしはそのカップルを二度見し、さらに三度見をした。
 そうではない。カップルではなく、男はひとりで席に座っていたのだ。女はそこにはいないのだ、物理的な女はそこに存在しない。
 男は観光地帰りだったようだ。土産物屋の紙袋を足もとに置いていた。どこかで波長があい、男は女に魅入られたのだろう。女は男の背にべたりと貼りつく泥のようなものだった。目を見開き、男の顔を覗き込み、男にしがみつき、おそらくは男から離れることはなかっただろう。
 目的地に着き、わたしはそのまま電車を降りた。女は男にへばりつき、顔を覗き込んだまま。男は女に気付くことなくイヤホンで耳をふさぎ、携帯をいじり続けていた。 
 その後あの男がどうなったのかは当然知らない。

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