異境備忘録的なあれの話 ⑥ 「太陽の紅と金」
何年もむかし、自分が持って生まれたセンスやあれこれに関する真偽を確かめるべく、色々な検証や実践を重ねていたころのこと。
当時は俗に言われる幽体離脱のような、あるいはアストラルトラベルのようなものも試していた。もちろん、ただの夢や妄想の類であるかもしれないことは前提の上で。
その日は、とある神社さんに行ってみることにしていた。
わたしは上空から滑降するように降りていく。周りには暗色が広がっているだけ。遠く離れた眼下には、こちらを見上げてニコニコしている老紳士が立っていた。
わたしは老紳士には構わずにまっすぐ滑空する。と、眼前に大きな扇子があらわれ、パンッと音をたてながら広がる。朱色と金とが印象深く用いられた絵図が描かれていた。
わたしは広がった扇子の絵図ごと穿ちながら滑空を続ける。老紳士はやはり笑んだままこちらを見上げていた。
再びパンッと音を鳴らして扇子が広がる。描かれているのはやはり朱色と金が印象的な絵図。わたしは構わずに穿ち、滑空した。
以降はまさにいたちごっことするにふさわしいものだった。わたしが進む先にはいくつも大きな扇子が広がる。朱色と金とが用いられた、美しい、絢爛豪華な絵図が暗色の中に広げられるのだ。どれほどにそれを穿ちながら突き進んでも、老紳士との距離も一向に縮まらない。
わたしはついに滑空を止めて宙に留まった。
この地への侵入は今の時点ではまだ尚早だ。そう思ったからだ。
わたしは老紳士に向けて礼をして引き返した。もう、十年近く前のことになる。
ちなみに、それから数年後に再び挑戦してみたが、そのときはなぜか滑空した先は海中だった。海中に何か拝殿のようなものがあるのだろうと思いはしたが、そこから先へは進まなかった。