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ロゴ大好きデザイナーが語りたい『シティーハンター』タイトルロゴの進化と魅力

こんにちは、ちょっと株式会社の久保田です。

突然ですが『シティーハンター』は好きですか? 好きですよね??
説明なんて一切不要だと思いますが、日本に冴羽獠が現れてからもうすぐ40年。
原作は6年半の連載期間を経て最高の結末を迎え、その連載と並行して放送されていたテレビアニメは大ヒット、そしてアニメ映画化もされました。

近年ではフランスで実写映画化されたり宝塚歌劇団での舞台化も話題になりましたし、昨年公開した新作アニメ映画『天使の涙(エンジェルダスト)』も記憶に新しいところです。
そして今もスピンオフ作品が連載中、最近ではNETFLIXでの実写映画化が話題になっていて、現在もアスファルトタイヤを切り付けながら走り抜けてます。

そんな作品を楽しんでいるんですが、ふと「シティーハンターのロゴってこれだっけ?」って気になってしまい・・・
こうなるとロゴ大好きデザイナーは止まりません!



原作コミックスのロゴを見直してみる。


記念すべき第1巻の表紙にあるロゴをGet wild and toughにトレースしてみました。
当時熱狂していた私にとって馴染みあるデザインがこれ。

遊び半分でコンストラクショングリッドも引いてみました

トレースしていると気付いたんですが、直線の幅に微細な変化を持たせて均一に見えるような調整がされているんですね。Yの右上部分やRの右足部分など微妙に線を太くするなど細かい調整が施されています。

このデザインにシャープな印象を与えているシアー角度(傾き)は15〜16度くらい。これは北条司先生による不朽の名作『キャッツ・アイ』のロゴと同じ角度っぽい。

『キャッツ・アイ』のロゴも最高ですよね!

どちらのデザインもアナログ作業だと思われるので正確なところは分かりませんが、これは単なる偶然の一致とは思えません!
同じ世界で繰り広げられる2つの作品、その世界観や舞台だけでなくロゴの傾斜角まで一緒!
このディティールからも世界観へのこだわりが感じられます。

余談ですがコミックス表紙のロゴ配置は大きく分けて3パターンあって、最も多いパターンがベーシックな水平レイアウトなんですが、17巻あたりから右上がりレイアウトが多く見られます。これが一番カッコいい!

カバーイラストの絵柄に合わせてロゴの配置角度を調整してバランスを取っているものあり、これも見逃せないデザインポイントになっています。

24巻と34巻は同じ角度だが32巻は絵柄に合わせてバランスを取っている

本編の連載が始まった1985年はApple社の株主総会でDTPが提唱された年。もちろんフォントデータなんてものは存在しない時代です。
定規当てて線を走らせ、太さや角度を繰り返し調整する完全なアナログ作業だったはず。DTP普及によってデザイン作業が飛躍的な進化を遂げている現代では考えられない、ちょっと気が遠くなりそうな手間が掛けられていることが想像できます。
それが今もまだ使われ続けている・・・って、まさにワン・オブ・サウザンドなデザインです!


テレビアニメ版のロゴも見てみよう。


メディアミックス作品なので当然メディアに応じた色んな派生パターンがあるわけで。
まずはアニメ版のロゴを見てみます。

画像引用元:サンライズワールド

細かい部分を見るとラインの太さが違ったりしますが、基本的には原作コミックスのデザインを踏襲してそうです。
右肩に「シティーハンター」って和文表記を追加しているのが原作コミックス版との大きな相違点。シとテ、ンとタの繋ぎ方がオシャレです。
同じテレビアニメ版でもカラーリングや和文部分に変化があったりと多くのバリエーションが存在しているようです。

このアニメ版から出現した和文併記パターンがこの後の作品に継承されていくものとなり、最も使われているデザインパターンになっていきます。


実写映画版と宝塚ミュージカル版も見てみる。


この勢いでフランス映画版と宝塚ミュージカル版のロゴも見てみます。
1993年公開の香港ジャッキー版についてはロゴが作成されていないっぽいので今回はパスします。決して深い意味はありません。

上:映画版のポスターから抜粋 下:ミュージカル版

どちらもオリジナルから派生したアニメ版をベースにしています。馴染みあるフォルムなのですんなり認識できますね。

実写映画版は本国フランスでの原題が『Nicky Larson et le Parfum de Cupidon』なので画像のロゴは日本国内向けのデザインです。
実写映画らしい質感でリッチさを高めつつ、副題やカラスなど原作ネタを組み込んだ遊び心あるデザインに仕上がっています。最高です!

どちらもシティーハンターの世界観を大事にした、原作へのリスペクトが感じられるワンホールショットなロゴデザインになっています。


そして令和のシティーハンターへ。


オリジナル版に近い「劇場アニメバージョン」

現在もまだまだ新しい展開で楽しませてくれている中で、まず見ておきたいのは劇場アニメ版。
2019年に公開された『新宿プライベートアイズ』、そして昨年公開された最新作『天使の涙(エンジェルダスト)』のタイトルロゴはこちら。

カッティングとかカーニングとかスキが見当たらない!

2つを比べると左側にある「劇場版」の文字組みが変更された程度。
サブタイトルのデザインに大きな違いはありますが、どちらもロゴ本体と同じ傾斜を入れているので全体に一体感が生まれています。
従来のパターンから大きな変更点は見当たりませんが、アナログ作業で発生した微細なズレや間隔などが正確に整えられているようで、言わばタイトルロゴのデジタルリマスター版ですね。


リデザインされた「XYZバージョン」

そしてもう1つのパターンも誕生しています。
それは30周年を記念して販売された「XYZ Edition」に採用されているバージョン。
この限定エディションは原作に加えてインタビューや解説が収録されているのと、全巻購入の特典が超レアアイテムだったりして当時話題になったものでした。

このシリーズは背表紙デザインも凄い!

とにかくカバーがめちゃくちゃカッコいい。
1冊だけで見るとただの黒太ラインが3冊並べるとXYZになっているギミック。素晴らしい装丁デザインです。

違いが分かりやすいよう、このエディションのロゴも抜き出してみました。

近未来感もほのかに感じられますね

原作のテイストを残してはいるものの、かなり大胆なアレンジが加えられています。よりシャープさが強調されハードボイルドなテイストが感じられる存在感あるデザインに仕上がっています。
ちなみに極々わずかですが、おそらく1度ほどシアー角度が緩くなっているはず。

これは2014年頃に登場したパターンであり、当時は限定リリースだったこともあり認知度は高くないデザインなのかもしれません。
しかし、そんな限定的だったタイトルロゴが、この令和の時代にスピンオフ作品『今日からシティーハンター』で復活しています。

画像引用元:マンガほっと

『シティーハンター』の世界に主人公が転生しちゃうってアイデアが楽しい異世界転生モノ。
この作品の良いところは、原作イメージを全く崩すことなくストーリーが繰り広げられていること。そしてめちゃくちゃ面白い!

このスピンオフタイトルで使われているのがXYZ Editionのロゴデザイン。太めのラインで構成されている力強いデザインが採用されています。
冒頭で「これだったっけ?」と違和感を覚えたのがこれ。
10年ほど前に誕生したデザインが今になって復活して使われています。


そして誕生した「NETFLIXバージョン」

現在、最も話題になっている『シティーハンター』がNETFLIXの実写映画版。
社内でも話題になっていて、この記事を書くキッカケにもなってます。

槇村秀幸役に安藤政信という絶妙なキャスティング!

少し線を太めにして、メタリックに立体感を少し足しています。
大きく違うのは和文表記を取り除いたこと。これはグローバル配信を考慮されているのかもしれません。
それ以外でもなんとなく印象が違っているので細かく見てみます。

ラインの太さなど印象的にはXYZバージョンに近い。
そこに劇場アニメバージョンのタイポグラフィ、特に「C」「Y」「H」「R」あたりを取り込んでいます。なぜか「N」だけはXYZバージョンのまま。なんでだろう・・・
XYZバージョンと劇場アニメバージョンのイイトコ取りしたハイブリッドバージョンですね。

このNETFLIXバージョンが誕生したことで、現在3つのバージョンが同時に使われていることになります。
この違いを見ているだけでも楽しい。こんな作品って他に無いのでは?


改めてオリジナルデザインの偉大さを感じる。


実は今回紹介したもの以外でも、リニューアル新装して出版されたコンプリートエディションやZenon Selectionなど多数の作品があり、それぞれ全く違うタイトルロゴが採用されているケースもあります。
それらは新装にあたっての装丁コンセプトがあり、そこから創り出されたデザインが採用されたものであり、オリジナルデザインを否定するものではなく、新しい可能性を探ったデザインなんだと思います。


・・・


まとめます。
ここまで紹介してきたタイトルロゴを分かりやすく系譜のようにしてみました。
※違いが分かりやすいようにエフェクトやサブタイトルなどは省いてシェイプだけ抜き出しています。

オリジナルデザインを第1世代として、右肩に和文表記が加わったテレビアニメ版が第2世代。そして現在使用されているのが第3世代としました。

現在の第3世代に至るまで、どれも『シティーハンター』っぽさは失われていないのが凄いところ。それは源流にあるオリジナルデザインをしっかり踏襲しているからに他なりません。
デザインリニューアルや過度なアレンジを加えるのではなく、その時代やメディアに最適化されているだけです。

オリジナル版を産み出した方々はもちろんのこと、それを大切に守ってきたデザインスタッフの“こだわり”が感じられます。
それが『シティーハンター』が漫画史に燦然と輝き、世代を超えて愛されている理由のひとつだと思います。

ふと抱いた違和感をキッカケに軽い気持ちで調べ始めた『シティーハンター』のタイトルロゴでしたが、想像していた以上にデザインの深みに触れることができました。

他にもロゴデザインについて好き放題に語っている記事もありますので、ぜひご覧ください。

ちなみに私は『Get Wild』よりも『STILL LOVE HER』の方が好きです。
それでは!

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