東洋のドーバー「屏風ヶ浦」 ~銚子ジオパーク~
銚子の壮大な地形,屏風ヶ浦(びょうぶがうら)。
銚子マリーナの先,銚子半島の南側に,高さ35~55メートルの断崖絶壁が約10キロにわたって続いています。
その美しく迫力のある景色は,東洋のドーバーと称されています。
ドーバー海峡に面したイギリスのホワイトクリフは真っ白ですが,これに対して銚子の屏風ヶ浦は,まるでミルフィーユを想起させる外観です。
屏風ヶ浦の特徴的な景観は,江戸後期以降に名所記等で取り上げられるようになり,歌川広重の「六十余州名所図会」にも描かれて,広く知られるようになりました。
屏風ヶ浦は,関東地方が海だった約300万年前から堆積物が何層にも重なってしま模様になり,それが隆起したものです。
よく見ると地層は緩やかに傾いていて,西(東京がある方向)に下がっています。
屏風ヶ浦と同じ時代の地層は,東京では地下数千メートルにあります。
それだけ,銚子の地域は,大地が大きく持ち上がってできあがっているわけです。
屏風ヶ浦は,波によって削られてできた海食崖(がいしょくがい)です。
かつては年間約1メートルもの速さで崖が侵食され,海岸線が後退していました。
平安時代の末期には,屏風ヶ浦の西端・刑部岬(ぎょうぶみさき)に佐貫城がありましたが,海岸線の後退により海中に没してしまいました。
鎌倉時代は,今よりも約2~6キロ先に海岸線があったと言われています。
また,銚子市と旭市の境を流れる磯見川の河口には,かつて「通連洞」と呼ばれる海食洞起源の潮吹き穴の観光名所がありましたが,それも昭和に入ってから海食で消滅してしまいました。
こうした侵食を防ぎ,国土を保全するため,1960年代に護岸工事が行われました。
消波堤の設置で,海岸線の後退の速さは小さくなりました(ただし今でも地震や風化等による後退は進んでいます。吉村光敏他「屏風ヶ浦海岸崖の景観と近年の地形変化-消波堤設置による侵食様式の変化とその影響-」千葉県立中央博物館研究報告第16巻第2号)。
ところが,侵食を防いだことで,屏風ヶ浦が削られてできる砂の供給が減り,今度は,その南にある九十九里浜の海岸侵食が進む,という問題が起きています(齋藤仁「屏風ヶ浦の海食崖」「地図学の聖地を訪ねて」71頁)。
また,侵食を防いだことで,崖が植物で覆われてしまい,屏風ヶ浦本来の景観が失われるおそれもあります。
屏風ヶ浦全体を見渡すには,銚子マリーナや,地球の丸く見える丘展望館がおすすめです。
また,銚子マリーナから屏風ヶ浦沿いに遊歩道がありますので,迫力のある崖を歩きながら目の前で観察できます。
屏風ヶ浦は,サスペンスドラマや映画,CM,PV,MVなどのロケ地としてよく登場します。
もっとも,一般の方は崖の上に決して無断で立ち入らないようご注意ください。
非常に危険ですし,ロケで使われる場所は私有地です。
屏風ヶ浦をロケで利用される場合は,下記サイトをご参照ください。
本当に不思議な縁なのですが,ロケ地を管理している池田健一さんは,偶然にも,私の千葉市の小学校時代の1学年上の先輩です。
銚子は,2012(平成24)年9月に日本ジオパークに認定されました。
ジオパークとは,ジオ(大地)とパーク(公園)を組み合わせた言葉で,貴重な地質や地形が見られるだけでなく,その地質・地形が「生き物」「人の営み」に繋がっていることを体感できる場所です。
「ユネスコ世界ジオパーク」は,48か国に213地域あります(2024年3月28日現在)。
日本では10地域(洞爺湖有珠山(北海道),糸魚川(新潟県),山陰海岸(鳥取・兵庫・京都),室戸(高知県),島原半島(長崎県),隠岐(島根県),阿蘇(熊本県),アポイ岳(北海道),伊豆半島(静岡県),白山手取川(石川県))。
銚子は,世界ジオパークには登録されていませんが,47地域ある日本ジオパークの1つです(2024年10月現在)。
日本ジオパークネットワーク https://geopark.jp/
今回紹介した屏風ヶ浦だけでなく,「犬岩・千騎ヶ岩」の記事で紹介した中生代ジュラ紀(2億年前~1億5000年前)という非常に古い地層でできた奇岩をはじめ,銚子にはこの他にも面白い地質・地形がたくさんあります。
そして,銚子の豊かな漁業・農業・歴史・文化が,こうした地質・地形と深く結び付いているわけです。
銚子ジオパーク推進市民の会の皆さんが積極的に活動されていて,現地のジオガイドや犬吠テラステラス内のビジターセンターで説明を聞いて学ぶことができます。
銚子ジオパークは,2018(平成30)年,台湾の野柳(Yeliu)地質公園と交流促進協定を締結し,姉妹公園になっています。
ということで,私も非公認銚子観光大使として,台湾に行ってきました。
台北駅からバスで1時間半,北東の港の近くにある野柳は,様々な奇岩であふれています。
特に有名なのは女王頭(クイーンズヘッド)。
「キノコ岩」と呼ばれる岩石が1962~1963年に断裂し,その姿がイギリスのエリザベス女王の頭部に似ていたことから,この名が付けられました。
今後数十年で自然風化が進み,首の部分が細くなっていってもげてしまうおそれがあるため,現在,研究機関に依頼して補強・保存計画を進めているのだそうです。
銚子ジオパークには,この公園から交流の証として女王頭のレプリカが贈られています。
屏風ヶ浦は,2016(平成28)年に,国の名勝及び天然記念物に指定されました。
この壮大な景色を,ずっと後世の人々にもしっかり引き継いでいきたいですね。
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