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アマガミの聖地・銚子の巡礼
アニメの舞台の土地を訪れる聖地巡礼。
銚子も「アマガミ」の聖地として,広く知られるようになりました。
アマガミは,もとは2009(平成21)年に発売されたPlayStation2の恋愛ゲームです。
それが,2010(平成22)年と2012(平成24)年の二度にわたって,テレビアニメ化されました(アマガミSS,アマガミSS+ plus)。
アマガミスト(=アマガミファン)の皆さんが,聖地の写真を次々とSNSにアップしてくださっています。
銚子ポートタワー,銚子マリーナ海水浴場,川口神社,銚子駅前などは,一般の観光客の方も訪れる景色です。
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しかし,他にも
一見何の変哲もない高校前の坂道(私は16年銚子に通っていますがここは一度も来たことがありませんでした)
君ヶ浜しおさい公園内にある休憩所(私はこれまで素通りしていましたが,アマガミストはここを「七咲神殿」と名付けています)
銚子ではよくある風景の,キャベツ畑と風車と一本道
なども,聖地とされています。
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私はふだんアニメにはほとんど関心がないのですが,非公認銚子観光大使としては,やはりきちんと原典に当たらなければなりません。
ということで,amazonレンタルで,アマガミSS(全26話)とアマガミSS+ plus(全13話)を視聴しました。
アマガミでは,クリスマスに開催される輝日東(きびと)高校の創設祭を軸にして,橘純一君(2年生)と各ヒロインとのあいだの恋愛ストーリーが繰り広げられます。
「男はつらいよ」の寅さんが出会うヒロインは全国津々浦々にいますが,アマガミのヒロインは全員,輝日東高校の生徒です。
そして,輝日東という街が,銚子の風景そのものなのです。
ヒロインたちは,それぞれがとても個性豊かです。
興味関心の赴くままに動いてしまう天然キャラで,多くの生徒から人気のある森島先輩。
口数は少なく一見クールでも,心は優しい後輩の七咲(ななさき)さん。
極度の人見知りを克服しようと努力している,後輩の中多さん。
サバサバした性格で限定物商品には弱い,悪友のクラスメイト棚町さん。
お菓子をついつい食べ過ぎてしまう,幼なじみの桜井さん。
そして,クラス委員や創設祭実行委員長を務める優等生で,他の人には知られていない一面をもつ,同級生の絢辻(あやつじ)さん。
各ヒロインとのストーリーが,アマガミSSで4話ずつ,SS+ plusでは2話ずつ展開されていきます。
とても面白いアニメで,10年以上人気が根強く続いているのも納得の作品です。
アマガミを見始めて私が最初に驚いたのは,スマホではなく自宅の黒電話が出てくることでした。
調べてみると,アニメの時代設定は1990年代後半とのこと。
高校生の恋愛もののアニメを40代のおじさんの私が視聴するのを以前は若干ためらっていたのですが,「え,自分の世代だ」と知ってからは,心理的な距離がぐっと縮まりました(私は1997(平成9)年3月高校卒業です)。
もっとも,1990年代後半には黒電話はほとんど使われなくなっていましたし,当時はポケベルが流行していましたがアマガミにポケベルは出てきません。
また,子どもの事件を中心に扱う弁護士の私がアマガミを見ながらずっと感じていたのは,「このアニメには大人がほぼ出てこない」ということでした。
何度も登場する大人は,甘酒でベロンベロンに酔っ払う担任の先生だけです。
あとは食堂の職員さんやトラック運転手などが若干出てはくるものの,登場人物の高校生の親たちを含め,大人はこのアニメにほぼ全く登場しません。
高校生の恋は周りの大人が視界に入ってこないということなのかな,とか,大人が登場するとストーリーに急にリアリティが出てきて面白さが半減するからかな,などといろいろ推測していますが,ぜひいろんな世代の方の感想を聞いてみたいと思っています。
(なお,amazonでは「全年齢対象」と表示されますが,このアニメはプラトニックな話だけではないため,議論のあり得るところですが,子どもの事件を中心に扱う弁護士の私の意見としては16歳以上の方にご覧いただきたく,もし16歳未満であれば「これは現実世界だったら…」という大人による解説付きが望まれるところです。)
アマガミのポータルサイトや,銚子駅の観光案内所で入手できる銚子市観光協会の「アマガミSSシリーズモチーフ探訪マップ」は,聖地巡りに非常に便利です。
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重要スポットや協力飲食店には,アマガミのキャラクターと,アマガミスト同士が交流できるノートが設置されています。
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2021(令和3)年10月の銚子市の広報には,アマガミの聖地巡礼が取り上げられました。
https://www.city.choshi.chiba.jp/content/000023816.pdf
そして2022(令和4)年,銚子市は「訪れてみたい日本のアニメ聖地88」の一つとして一般社団法人アニメツーリズム協会から新規認定されました。
銚子市長が贈呈された認定プレートは,ポートタワー内に展示されています。
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聖地巡礼で銚子を訪れたアマガミストの皆さんが,次第に,銚子という街自体の面白さを感じてくださっています。
逆に,銚子が好きでアマガミを知らなかった私のほうは,これからは銚子のあちこちで見かけるアマガミ関連のパネルなどに「あ,あのキャラクターだね」とわかって,より楽しく銚子を回れそうです。
実は銚子では,過去にも別の聖地巡礼がありました。
1985(昭和60)年のNHKの朝の連続テレビ小説「澪つくし」の舞台は,銚子電鉄の終点の街,外川(とかわ)でした。
醤油製造元の娘(沢口靖子)と外川の漁師(川野太郎)の物語で,この当時,多くの観光客が外川に押し寄せました(竹本勝紀・寺井広樹「崖っぷち銚子電鉄なんでもありの生存戦略」)。
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このように,朝の連続ドラマや大河ドラマなどの舞台の街に人々が訪れることは以前からあったのですが,「聖地巡礼」という言葉は,21世紀に入った辺りからアニメの舞台を訪れることに対して使われ始めたようです。
聖地巡礼は,本来,熱心な信仰者が行う宗教実践です。
しかし例えば,中世に始まったスペインのサンティアゴ・デ・コンポステラ巡礼は,21世紀に入ってから急速に巡礼者数を増やしていて,毎年20万人以上の世界中の人々が徒歩や自転車で長い日数をかけて大聖堂を目指していますが,その多くは,普段教会に行かない人や非キリスト教圏の人であると指摘されています。
宗教学者の岡本亮輔氏は,次のように重要な分析をしています。
現代の聖地を支えているのは伝統や教義だけではない。そこを唯一無二の場所に変える物語とそれを共有する人々のつながりが不可欠である。場所と共同性の持続的な往還運動の中で,聖なる場所が立ちあらわれてくるのである。そして,こうした共同性に支えられた聖地巡礼の興隆は,宗教的なもののありかが,伝統的な寺社・教会・教団といった組織から,個々人のつながりへと移行していることを示している。
実際,アマガミの聖地巡礼によって,アマガミストの皆さん同士がSNSや交流ノートで繋がり,そして銚子の人々や銚子という土地とも繋がっていることを実感します。
山下にとっての聖地は,銚子にハマるきっかけになった場所である,地球の丸く見える丘展望館です(年間パスポート所持者)。
太平洋を330度見渡せるこの展望館は,日常のストレスを吹き飛ばし,心を穏やかにしてくれます。
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皆さんにもぜひ聖地・銚子を巡っていただき,いろんな物語をいろんな人と共有していただければと願っています。