銚子の温泉 ~犬吠埼温泉郷~
いろんな方に私が銚子の魅力を話すと,「えっ? 銚子の犬吠埼に温泉があるの?」と,特に温泉の話題に驚いて興味を示す方が多くいらっしゃいます。
そうなんです。
銚子の犬吠埼には,温泉が湧いているんです。
犬吠埼温泉郷は,太平洋と灯台を一望できる露天風呂で心身が解放されるだけでなく,約1万年前の古海水を起源とした「化石海水型」温泉に美肌効果(保湿効果)があることも実証されています。
どうりで,銚子に長年通っている私がずっと美肌を保てているわけだと,納得です。
犬吠埼温泉郷は,2019(令和元)年の温泉総選挙(環境省・内閣府・総務省・経産省・国交省観光庁が後援)で審査員特別賞も受賞しています。
温泉郷という名の通り,犬吠埼のいろんなホテル・旅館で入浴することができますが(もちろん日帰り入浴が可能です),その中でも私が特に皆さんにお勧めなのは,源泉をもっている次の2つのホテルです。
温泉は自分で写真撮影できないため,画像の提供・利用許可を両ホテルにお願いしたところ,どちらからもご快諾いただけました。
一つ目は,犬吠埼観光ホテルさんの「潮の湯」。
目の前に迫力ある波を感じながら,露天風呂に入浴することができます。
泉質は,ナトリウム・カルシウム-塩化物強塩泉です。
二つ目は,絶景の宿犬吠埼ホテルさんの「黒潮の湯」。
高台から君ヶ浜を見渡しながら,露天風呂に入浴することができます。
泉質は,ナトリウム-塩化物強塩泉です。
犬吠埼に最初の温泉が湧いたのは,1997(平成9)年のことです。
その時の犬吠埼観光ホテルさんの「潮の湯」の誕生には,ドラマがありました。
もともと犬吠埼観光ホテルでは,漁業に従事する人々が冷蔵庫で冷えてしまった身体を温められるよう,海水を沸かしてお風呂を提供していました。
海水を沸かして入浴するというこの「潮の湯温浴」は,銚子で働く人々の知恵から生まれていたものなのだそうです。
「もしこのお湯が温泉なら,来た人にもっと元気になってもらえるのでは」。
当時の社長は,そんな素朴な思いから,私財を投じて温泉掘削を始めました。
周囲からは「地球の裏側まで掘ったって,温泉なんか出るわけがない。気でも違ったか。」と揶揄されました。
地下1000メートルまで掘ってもなかなか温泉は出ず,掘削費用はどんどん嵩んでいきます。
「やはり無謀な挑戦だったか」と思っていた矢先の1997(平成9)年4月8日,ついに地下1067メートルから温泉が自噴したのです。
その温泉の成分の良さは,分析業者から太鼓判を押されるほどでした。
その後,2000(平成12)年3月10日には犬吠埼京成ホテル(当時。現・絶景の宿犬吠埼ホテル)も温泉掘削に成功し,以降,この地域が犬吠埼温泉郷となりました。
「全てはたった1人の,『ここに来てくれた人が元気になってくれたら』の素朴な想いが始まりです」。
そんな心が温まる素敵なエピソードを,犬吠埼観光ホテルさんが教えてくださいました。
ちなみに,温泉法という法律での温泉の定義は次のとおりで,温度が25度以上か,温度が25度未満でも19の成分のうち1つ以上を一定量含んでいれば,法律上の「温泉」です。
温泉法の温泉の定義には,水蒸気やガスも含まれています。
水蒸気やガスを除いた温水・鉱水の温泉を「鉱泉」といい,鉱泉のうち特に治療の目的に供し得るものを「療養泉」といいます。
この療養泉は,法律ではなく,環境省自然環境局の鉱泉分析法指針で定義されています。
https://www.env.go.jp/council/12nature/y123-14/mat04.pdf
泉質名を付けることができるのは,療養泉のみです。
犬吠埼温泉も,「ナトリウム・カルシウム-塩化物強塩泉」「ナトリウム-塩化物強塩泉」と泉質名が付いている療養泉です。
(なお,温度が25度以上で含有成分の量が一定値に達していない療養泉は,「単純温泉」という泉質名になります。)
温泉と法律といえば,民法を勉強すると必ず最初のほうで出会う,宇奈月温泉事件があります。
温泉を引く木管がほんの少しだけ通過する土地を購入した人が,法外な値段での土地の買取りや引湯管の撤去を求めてきたのに対し,大審院(昔の最高裁判所)が権利の濫用だとして請求を認めなかったという,有名な事件です(大審院昭和10年10月5日判決・民集14巻1965頁)。
その事件の他にも,温泉に関する裁判例は昔から意外とたくさんあります。小澤英明著「温泉法・地下水法特論」第2章に掲載されている多数の裁判例の一番冒頭にある事例は,1895(明治28)年にまで遡ります。
裁判で争われるのは,温泉がそれだけ昔から貴重で大切なものだからだといえます。
また,現在では掘削による温泉が中心ですが,明治時代までは自然湧出泉がほとんどで,そのような古い温泉地には「温泉を誰がどのように利用するのか」などについての慣習法が温泉地ごとにあったというのも,とても興味深い話です(川島武宜他「温泉権の研究」)。
でも,私が銚子の広い海を眺めながら温泉に浸かるときは,弁護士として取り組んでいる日々の法的紛争を考えるのは少しお休みして,ゆっくりとリフレッシュしています。
そしてそれが,東京に戻った後で仕事に向き合うための新たな活力に繋がっています。
皆さんも,「どこか温泉でゆっくりしたいな」と考え始めたときには,ぜひ銚子の犬吠埼を選択肢として思い浮かべ,そして実際に満喫してみてください。