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バンドスコア耳コピ模倣は不法行為?東京高裁が逆転判決
以下では、「バンドミュージックの楽曲を耳で聴き取って(聴音)制作したバンドスコアが、著作権法上の保護対象外であっても、不法行為に基づく損害賠償責任が肯定された事例」について、分かりやすいように解説いたします(東京地判令和3年9月28日、東京高判令和6年6月19日)(Westlaw Japan)。本件は、一審が原告の請求を棄却したのに対し、控訴審が逆転で原告勝訴の判断を示したという、大変注目される判決です。
1.事案の概要
(1)当事者とバンドスコア
控訴人X会社(原審原告)
多数の「バンドスコア」を出版している会社です。バンドスコアとは、バンドが演奏する曲の全パート(例:ボーカル・ギター・ベース・ドラム・キーボードなど)をすべて楽譜に起こしたものをいいます。いわゆる“耳コピ”を通じて、音源から各楽器パートの音程やリズムを聴き取り、それを楽譜化する作業(「採譜」と呼びます)によって作られるため、非常に手間と専門知識が要るのが特徴です。
X会社は、このようなバンドスコアを紙媒体・電子媒体で多数出版し、実店舗やウェブ販売で収益を得ていました。被控訴人Y会社(原審被告)
「GLNET+」「U-FRET」などのウェブサイトを運営し、そこにバンドスコアを大量に無料で掲載していました。無料公開する一方、サイト内に広告を表示し、アクセス数に応じて広告料収入を得るビジネスモデルを展開していました。被控訴人W1
Y会社の代表取締役です。個人的にも、そして会社の業務用メールアドレスを使っても、X会社および他社のバンドスコアを大量に購入し、採譜担当のアルバイトに提供していたとされます。
(2)争点となった行為
Y会社は、ウェブサイトを通じて多数のバンドスコアを無料公開し、広告収入を得ていました。X会社によると、Y会社の公開していたスコアは、X会社が制作したバンドスコアを「事実上のコピー」ないし「模倣」したものが多数存在するといいます。これにより、
正規のバンドスコアを販売するはずだったX会社の売上や利益が、Y会社の無料公開のために奪われてしまった
と主張しました。X会社は平成30年6月に「自社スコアの無断模倣をやめてほしい」とY会社に警告文書を送りました。Y会社はサイトを閉鎖したものの、X会社は「すでに大きな損害が生じている」として、不法行為に基づく損害賠償を請求しました(請求額は一部請求として5億円など)。
(3)一審と控訴審
一審(東京地判)
著作権法が保護しない領域であっても、民法709条による救済余地はありうると示唆しましたが、「今回の事案では、被告が原告スコアを“故意に模倣した”事実を認めるに足りない」として、X会社の請求を退けました。控訴審(東京高判)
上記一審判決を取り消し、被控訴人Y会社およびW1に対して、連帯して1億6000万円超の賠償を命じました。控訴審は「バンドスコアは著作物ではないが、採譜にかかる投資へのフリーライドなどの“特段の事情”が認められる場合には不法行為が成立する」と判断し、Y会社側の模倣行為を厳しく指摘したのです。
2.バンドスコアと著作権法の関係
(1)著作物ではないバンドスコア
バンドスコアは、本来の作曲と違い、録音された演奏から音を拾い、楽器別に譜面化する作業です。したがって、「創作的なメロディを考え出す」というよりは「いかに忠実に再現するか」に重きが置かれます。著作権法が守るのは、新たな創作性や独自性がある“表現”ですが、バンドスコアは「元の曲を耳で聞いて写す」という性質が強く、著作権法6条各号が想定する“著作物”には当たらないとされることが多いです。
(2)北朝鮮著作物事件最判の示した理論
著作物性が否定されるものに関しては、原則として著作権法による救済は受けられません。しかし、最高裁平成23年12月8日判決(いわゆる「北朝鮮著作物事件」)で示された理論によると、「著作権法が保護する利益とは異なる法的利益」を侵害する場合には、不法行為が成立する可能性があるとされました。
つまり、「たとえ著作権法で守られない成果物であっても、無断利用が営業活動に深刻な被害をもたらすなど、特段の事情があれば、民法709条の不法行為として違法性が認められる」というのが、この北朝鮮著作物事件最判の考え方です。
3.本件控訴審が注目した「フリーライド」とは
(1)採譜コストへのただ乗り
バンドスコアの採譜は、素人が簡単にできる作業ではなく、以下のような多大な労力を必要とします。
楽曲を繰り返し聴き、各パート(ボーカル、ギター、キーボードなど)の音程・リズム・奏法を正確に聴き取る
それを譜面上に落とし込むための楽譜知識・音楽理論・各楽器の特性に関する知識
高度な耳のトレーニング
実際にすべてのパートを聴きとるための時間(1曲で数十時間以上かかることも珍しくありません)
X会社は、こうしたコストと時間を投じてバンドスコアを商品として販売してきましたが、Y会社は、X会社のスコアをそっくり真似してしまうことで、自分たちでは十分な採譜コストを払わずに済む、いわゆる「フリーライド(ただ乗り)」をしている、とみられたのです。
(2)フリーライドが引き起こす市場破壊
もし、バンドスコアを本来有償で買っていた人々が、Y会社の無料サイトで同等の情報を得られるなら、誰もお金を払ってX会社のスコアを買わなくなります。そうするとX会社は採譜コストを回収できず、バンドスコア制作から撤退してしまうかもしれません。それが進めば、ユーザーが入手できる正確な楽譜が減り、音楽文化の発展にも支障が出るおそれがあります。控訴審は、こうした社会的影響も踏まえ、Y会社の行為が公正な競争を逸脱し、営業上の利益を違法に奪うものと認めました。
4.模倣の認定ポイント
控訴審は、バンドスコアの模倣を具体的に立証するうえで重要となる事項を、以下のように丹念に検討しました。どこまでが「偶然の一致」で、どこからが「故意のコピー」なのかを判断するためのポイントを詳しく説明いたします。
(1)採譜の本質と偶然の一致の可能性
「採譜」とは、録音された音源を繰り返し聴いて、音程・リズム・コード進行などを楽譜として書き起こす作業のことです。
バンドスコアでは、特に複数の楽器パート(例:ボーカル、ギター、ベース、ドラム、キーボードなど)を同時並行で聴き取る必要があります。
通常、採譜者ごとに耳の良し悪しや音楽理論の知識、楽器演奏の経験などが異なるため、完全に同一の譜面に仕上がることは少ないです。
実際、同じ曲を採譜しても、記譜の仕方(音符の切り方、リズムの分割、オクターブ移動など)は微妙に違ったり、多少の誤聴や表記ミスが入るのが一般的です。そうした事情から、「偶然に同じ記譜になる」可能性自体は、極めて低いということを裁判所は前提としています。
(2)「誤りの一致」が模倣の強力な証拠
控訴審が特に重視したのが、「X会社スコアに存在する誤記や誤聴が、Y会社スコアにもそっくり引き継がれている」という点でした。
採譜には誤りがつきもの
どれだけ専門的に耳コピをしても、一部聴き間違いが混ざることは珍しくありません。例えば、音程を半音ずらしてしまう、特定の和音を聞き漏らしてしまうなどです。同じ誤りが複数箇所で一致
仮に偶然、同じ箇所で同じ誤記をすることが1~2回だけなら、まだ偶然という説明もあり得ます。しかし、本件では大量の楽曲で何度も同じ“聴き間違い”や“小節の配分ミス”が重なっていると認められました。偶然の範囲を超えている
裁判所は「一部の特殊な箇所について同じズレがある」というだけでなく、誤記の内容や生じる小節、音符のタイミングまでもが合致している以上、独立に耳コピしたのではなく、X会社スコアを参照しながら書き写した可能性が高いと結論付けました。
(3)ディレイタイムなど、細部の設定値が完全一致
楽器演奏には「エフェクター」と呼ばれる機材を使用することがあります。ギターなどで音を歪ませる「ディストーション」や、音を遅延させて残響効果を出す「ディレイ」などです。
ディレイの設定時間は小数点以下のミリ秒単位で指定される場合があり、裁判所が取り上げた例では、X会社スコア・Y会社スコア双方で小数点以下千分の一秒の数値が一致していました。
採譜者が独自にストップウォッチなどを用いて測定するにしても、そこまで精密に合致することは極めて考えにくいです。
結果として、こうしたエフェクト設定値の一致は「ほぼコピー以外に説明がつかない」と判断されました。
このように、耳で聴いて“微妙なタイミング”を計測するだけではほぼ再現不可能な一致が複数認められたため、裁判所は模倣を強く推定しました。
(4)特有の表記法・注釈の引き継ぎ
X会社が採譜し、販売していたバンドスコアには、それぞれの採譜者が好んで使う独自の表現方法や、場合によっては何らかの注釈(小さな字で書かれた補足説明)などが含まれていました。たとえば、
“Small note”など、特別な意味づけを持つ音符の書き方
ボーカルとコーラスを同じ段に併記するときに付すメモ書き
どの弦(ギターの何弦)を押さえるかの演奏ポジション指定
こうしたX会社特有の記載が、Y会社スコアでも全く同じ言葉や表記で登場しており、しかも本来その注釈が不要な場面でも何となく残っている例がありました。
意味も分からないままコピーしているような形跡がある。
採譜者が“自分で聴き取っている”ならば不要な情報をわざわざ書き留めるはずがない。
控訴審は、このような特有表記の一致が多数見られる点についても、「模倣の可能性が高い」という理由付けを行いました。
(5)異常に高い一致率と他社比較
控訴審では、X会社スコアとY会社スコア以外にも、別の出版社(たとえばZ社やW社など)のバンドスコアが存在する場合、それら同士の一致率がどの程度なのかを調べています。
一般に、同じ曲を異なる人が採譜すると、全体の表記が5~6割も合えば「高い類似度」と感じられることが多いです。
他社スコア同士の比較では、多くの楽曲について3~5割程度の一致率にとどまっていました。
ところが、X会社スコアとY会社スコアの比較では、9割を超えるものや、ほぼ100%近く一致しているものまで見られました。
裁判所は、「複数の人が独立に耳コピしているのなら、せいぜい6割程度まで一致することはあっても、9~10割もの一致が頻繁に起こるのは不自然」と断じ、Y会社がX会社スコアをほぼそのまま複写していると強く推認しました。
(6)アルバイトへの資料提供状況
さらに、代表取締役である被控訴人W1は、長年にわたりX会社のバンドスコアを集中的に購入していました。これら購入したスコアを、Y会社のアルバイト担当者(採譜や楽譜入力を行うスタッフ)にまとめて渡していた事実が認められます。
Y会社側は「採譜のミスを校合(チェック)するために他社スコアを参考にしただけ」と主張しましたが、裁判所は「チェックとはいえ、参照しやすい譜面を渡されたら、まる写しに近い形をとるリスクが極めて高い」と評価しました。
仮に完全に独自の耳コピをするのであれば、先に他社スコアを見る必要はあまりありません。先に他社スコアを与えられれば、採譜者はそこに頼ってしまう可能性が十分にあるので、組織的にフリーライドを誘発していた面が強いと認定されたのです。
まとめ:模倣を示す「多数の合致」が決め手
以上のように、控訴審がY会社のスコアを「偶然の一致」ではなく「意図的なコピー」と判断したポイントは、大きく以下の点にまとめられます。
誤りの一致:採譜者特有の聴き違い、記譜ミスまで複数の楽曲で一致している。
エフェクト設定値の精密な合致:小数点以下のディレイタイムなど、耳コピだけでは到底説明しにくい完全一致。
独特な表記までコピー:X会社ならではの注釈や書式が同じ形で転写されている。
異常に高い一致率:他社同士のバンドスコアでは5割程度しか合わないのに、Y会社は9割超も一致。
事前にスコアを大量購入し、アルバイトに丸ごと渡していた:独自採譜ではなく、校合名目で楽譜をそのまま書き写していた恐れが高い。
これらが積み重なり、「バンドスコアを組織的に模倣していた」と推認するに十分と判断されたのです。こうして認められた「模倣性」は、不法行為成立の前提条件となり、最終的に高額な損害賠償の根拠づけにもつながりました。
5.高裁の結論と損害認定
ここでは、控訴審(東京高裁)がどのような理由で不法行為の成立を肯定し、最終的にどのように損害額を評価したのかを、詳しくご説明いたします。
(1)不法行為が成立すると判断した理由
控訴審は、まず「著作権法が保護する対象かどうか」という議論を踏まえつつも、著作権法以外の法理(民法709条の不法行為)による救済の余地を検討しました。そのうえで、「北朝鮮著作物事件最判」の示すとおり、著作権法に該当しない著作物(あるいは著作物でない創作成果物)についても、
著作権法が規律する利益以外の法的に保護される利益
営業活動・事業上の利益(投資回収が可能になる権益)
が侵害されるような「特段の事情」があれば、不法行為が成立しうる、と判断しています。
具体的には、バンドスコアの採譜には多大な時間と費用、専門知識が投下されますが、被控訴人Y会社がX会社スコアを模倣して無料公開した結果、X会社は採譜コストを回収できる見込みを失い、顧客を奪われる営業上の損害を被ったといえます。控訴審は、そのようなフリーライド行為を「公正な競争を逸脱する不正な営業妨害」と位置付けました。
(2)採譜フリーライドによる「特段の事情」
控訴審が特に重視したのは、被控訴人会社(Y会社)が独自に耳コピ(聴音)した形跡がほとんどなく、むしろ組織的にX会社のバンドスコアを参照・依拠している事実です。たとえば、
同じ誤りが両方の楽譜に認められる
ディレイ(音の残響)設定値が小数点以下千分の一秒単位で一致
特有の表記や意味のないメモ書きまでそのまま写されている
などの事情から、Y会社側のスコアが偶然や独自の採譜で一致したとは考えにくいと判断しました。そのため、「著作権法上の保護外」とはいえ、採譜コストという法的に保護されるべき利益を著しく侵害していると結論付けています。
(3)サンプリング法をめぐる攻防
X会社は、Y会社による模倣がなかった場合、本来得られたであろうバンドスコア販売収益が大きく減少したと主張し、損害を5億円以上と試算していました。その際に用いられたのが、いわゆる「サンプリング法」という立証手法です。
サンプリング法の概要
まず、X会社が「安定して売れていた人気曲(定番曲)」について、本件不法行為開始前の平均月間販売冊数を算出
次に、Y会社のサイトにおける月間リクエスト数(無料閲覧数)と照合し、1リクエストあたりどれだけのバンドスコア販売に相当するかを推定
それを本件で問題となった全楽曲に当てはめて、逸失利益を導き出す
控訴審は、このサンプリング法が被害を大まかに把握するための方法として一応の合理性を認めています。もっとも、推定の精度には限界があるため、X会社が主張した額をすべてそのまま認容するのではなく、
X会社が実際にどの程度販売機会を失ったか
全閲覧者が購入を完全に代替したとまではいえない
などの事情を加味しました。つまり、「立証困難な中でゼロとするわけにもいかないが、5億円は過大になりすぎないよう調整する」という形です。
(4)認容額と最終的な損害評価
控訴審は最終的に、X会社が被った逸失利益として約1億5000万円強を認定しました。加えて、
弁護士費用相当額(訴訟追行の必要性や本件の専門性を考慮)を約1500万円程度と算出
合計して約1億6925万円の支払を命じました
この金額は、X会社が請求した5億円には遠く及びませんが、著作権法以外の救済手段としてはかなり大きな金額が認められたといえます。判決としても、採譜コストへのフリーライドが放置されれば、市場における正当な競争基盤が崩壊しかねない、という危機感がうかがえます。
(5)W1(代表取締役)の責任と他取締役の差異
さらに、X会社は会社法429条1項に基づく責任も追及しました。代表取締役であるW1が、
自ら大量のバンドスコアを購入
アルバイトに音源とともに参考資料として渡す
結果として、事実上の丸写しを助長
といった行動をとっていたことから、不法行為の「共同実行者」であると裁判所はみなしています。これにより、Y会社とW1は共同不法行為(民法719条)や会社法429条1項に基づく責任を連帯して負うと判断されました。
他方、同社のほかの取締役は名目的に在籍していただけで、実際の経営やスコア制作の判断に関与していなかったため、「監視義務違反を問うほどの状況にはなかった」として責任を否定しています。この部分は、経営トップがどこまで介在していたかによって責任の有無を区別した形になります。
まとめ:東京高裁による逆転勝訴の意義
控訴審は、バンドスコアが著作権法上の著作物とは認められない場合でも、「著作権法が守る利益とは異なる営業上の利益」が侵害されるときは、不法行為が成立すると説示しました。X会社の採譜コストへのフリーライドが甚大であり、しかも大規模な無断公開が行われていたため、かなり高額の損害賠償を命じたわけです。
損害認定:サンプリング法など推計的手法を多少修正しつつも、1億円超の損害が認められました。
代表者の責任:会社法上の取締役の任務懈怠と、不法行為の共同実行の両面から、代表取締役W1の責任を重くみました。
今後の影響:著作権法に該当しない成果物であっても、投下コストへのフリーライド行為が公正競争を乱せば、同種の不法行為責任が認められる可能性が高まったといえます。
判決は、バンドスコアという「音源の再現を重視する楽譜」であっても、それを無断で模倣する行為は著作物侵害とは異なる枠組み(民法の一般不法行為)で制裁を受けうることを、具体的・金銭的な形で示しました。音楽出版業界や耳コピで制作する楽譜の領域において、極めて重要な判示と評価されています。
まとめと考察
本件判決は、北朝鮮著作物事件の枠組みを敷衍し、「著作物とはみなされないバンドスコアでも、多大なコストや労力にただ乗りする行為は、不法行為となり得る」と明示的に示しました。
音楽業界への影響
バンドスコアは、クラシック楽譜と違い「耳コピ」という形で書き起こされるため、著作権法の保護の外側に置かれがちでした。しかし、あまりに組織的・大規模に模倣が行われると、楽譜出版社は正当な対価を得られず撤退せざるを得ません。そうなれば、バンドマンやアマチュア演奏者が困るだけでなく、音楽文化全体の衰退にもつながります。本判決は、そのリスクを正面から評価したといえます。「模倣」と「偶然の一致」の線引き
採譜をしていれば、どのバンドスコアでも曲のキーや主旋律が似るのは当然です。しかし、ディレイタイムの完全一致や独特な誤記の転写など、偶然では説明しきれない点が重なれば、裁判所は“模倣”と推定します。本件は特に「誤り」や「特有表記」などを重視した点が注目です。損害賠償の評価
著作物であれば著作権法114条などが使えますが、本件では使えません。そこで裁判所は、アクセス数やサンプリング楽曲の販売実績などから、やむを得ず推計を行い、相当な範囲で損害を認定しました。今後、似たようなケースでも、立証が大変でも、民事訴訟法248条をふまえた裁量的判断がなされる可能性があります。今後の展望
音楽や映像など、著作物としての保護範囲からこぼれ落ちる「グレーゾーン」の創作物に対しても、フリーライドがあまりに酷い場合は不法行為が認められる流れは、拡大するかもしれません。特に、ネット環境での無料配信が横行する時代では、こうした判例を踏まえ、「著作権法以外の方法」で法的救済を図る動きが今後も注目されます。
結語
著作権法による保護が及ばない領域でも、バンドスコアのように多大な労力や費用を投下して制作した成果物に対し、組織的にただ乗り(フリーライド)して営業上の利益を奪う行為は、不法行為責任を免れないという結論が示されました。
本件判決は、採譜が音楽文化に不可欠な役割を担っている点や、フリーライドが競争秩序を大きく乱す点を強調する内容といえます。音楽活動に携わる方々や楽譜出版社にとって、今回の判決は、耳コピ成果物の保護に関する一つの画期的な指針となるでしょう。