ストーカー規制法の解説(3条・4条)
ストーカー規制法第3条:つきまとい等又は位置情報無承諾取得等をして不安を覚えさせることの禁止
条文の引用
「何人も、つきまとい等又は位置情報無承諾取得等をして、その相手方に身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせてはならない。」
第3条は、つきまとい等(法第2条第1項)および位置情報無承諾取得等(法第2条第3項)を用いて、被害者に不安を覚えさせる行為を禁止しています。この規定は、ストーカー行為が成立する以前の段階での介入を可能にし、被害者の身体的および心理的な安全を守ることを目的としています。
1. 禁止される行為の範囲
つきまとい等(法第2条第1項)
被害者を監視し、心理的な圧迫感を与える行為を含みます。
具体例:待ち伏せ、押しかけ、義務のないことの要求、粗野または乱暴な言動など。
位置情報無承諾取得等(法第2条第3項)
被害者の位置情報を無断で取得する行為や、その情報を記録する行為が含まれます。
具体例:被害者の携帯電話に追跡アプリをインストール、GPS端末の装着など。
2. 「不安を覚えさせること」の要件
「不安」とは?
被害者が、身体の安全や生活の平穏が脅かされると感じる心理的状態を指します。
具体的には、以下のような影響を与える場合が含まれます:
行動の自由を制限される。
社会的信用が損なわれる恐怖を感じる。
日常生活において監視されていると感じる。
社会通念上の基準
行為が社会通念上、相手方に不安を覚えさせるような方法で行われた場合に該当します。
行為者の意図ではなく、被害者の心理的状態が基準とされます。
以下に、ストーカー規制法第4条「警告」について詳細に解説します。
ストーカー規制法第4条:警告
条文の引用
「警視総監若しくは道府県警察本部長又は警察署長(以下「警察本部長等」という。)は、つきまとい等又は位置情報無承諾取得等をされたとして当該つきまとい等又は位置情報無承諾取得等に係る警告を求める旨の申出を受けた場合において、当該申出に係る前条の規定に違反する行為があり、かつ、当該行為をした者が更に反復して当該行為をするおそれがあると認めるときは、当該行為をした者に対し、国家公安委員会規則で定めるところにより、更に反復して当該行為をしてはならない旨を警告することができる。」
第4条は、被害者の申し出に基づき、ストーカー行為がエスカレートする前に警察が介入できる制度を定めた規定です。この警告制度は、法的な拘束力を持たない段階で行為者に中止を促し、被害者の安全を確保することを目的としています。
1. 警告の要件
警告を発するためには、以下の要件を満たす必要があります。
(1) つきまとい等または位置情報無承諾取得等に係る事実があること
行為が法第2条第1項(つきまとい等)または第3項(位置情報無承諾取得等)に該当する必要があります。
(2) ストーカー行為等が行われるおそれがあると認められること
行為がエスカレートし、被害者がさらなる被害を受ける危険性がある場合に警告が発せられます。
(3) 被害者からの申し出があること
警告は原則として被害者の申出に基づいて行われますが、被害者が申し出を行えない特段の事情がある場合には、警察が独自に判断する場合もあります。
2. 警告の内容
警告は、行為者に対し、以下の内容を文書で通知します。
行為の中止命令
つきまとい等または位置情報無承諾取得等の行為を即時中止するよう指示します。行為の違法性の指摘
当該行為が法に抵触する可能性を指摘し、さらなる行為の継続が刑事罰の対象になることを明示します。被害者との接触禁止
被害者への直接・間接的な接触を控えるよう警告します。
3. 警告の効果
(1) 行為の抑止効果
警告を受けた行為者は、当該行為が違法であり、刑事処罰を受ける可能性があることを認識します。そのため、多くの場合、行為が中止されます。
(2) 罰則適用の前段階
警告は法的拘束力を持ちませんが、行為者がその後も行為を継続した場合には、第5条(禁止命令)や第18条(罰則)が適用される可能性が高まります。
4. 警告の限界
(1) 拘束力の欠如
警告は法的拘束力を持たないため、行為者が従わない場合もあります。
(2) 実効性の不足
行為者が警告を無視して行動を継続する場合、警告だけでは被害を防ぐことができません。その場合、禁止命令などの強制力を持つ措置が必要となります。
5. 警告と禁止命令の違い
警告と禁止命令は、ストーカー規制法においてストーカー行為を防止するための重要な措置ですが、これらは目的や法的拘束力において異なります。
警告は、被害者がつきまとい等や位置情報無承諾取得等の行為を受けており、それが放置されればさらにエスカレーションする可能性がある場合に発せられる行政措置です。警告は警察本部長または警察署長が行い、行為者に対して行為を中止するよう文書で求めます。ただし、警告自体には法的拘束力がなく、行為者がそれに従わなくても刑事罰は科されません。そのため、警告の主な目的は、行為者に違法性を認識させ、行為を中止させることにあります。
一方、禁止命令は、警告を受けたにもかかわらず、行為が継続される場合に発せられる強制力のある措置です。禁止命令は都道府県公安委員会が発するもので、発令されると行為者は法的に拘束されます。禁止命令に違反した場合には、刑事罰が科されるため、強い抑止効果があります。また、禁止命令は警告よりも厳格な基準に基づき発令されるため、被害者保護のためのより高い効果が期待されます。
まとめると、警告は「初期段階の注意喚起」を目的とした柔軟な対応であるのに対し、禁止命令は「法的拘束力」を伴う強制措置であり、ストーカー行為の継続を厳しく防止するために用いられます。警告と禁止命令を適切に使い分けることで、被害者の安全を効果的に確保することが可能です。