見出し画像

アクアマリン #月刊撚り糸

まつ毛の先が下がった。彼の顔の動きに不意をつかれた私は、こんなに長い、綺麗なまつ毛をもった人だったのかと、初めて彼を見つめた。

でも、彼のまつ毛の先がまた上がった瞬間、私は恐怖に晒された。濡れたまつ毛の奥から、彼の怒りを感じたからだ。

「あっ、もう帰らないと。バスが出ちゃう。」独り言のような、か細い声が出た。「じゃあ。」

また、と言いそうになり、私は言葉を飲み込んだ。

バスに乗った私は、外に立つ彼を見つめなければならないと思った。彼の姿が見えなくなるまで。そして彼の姿が消えた時、私は心を治めるのに必死だった。素に投げられた彼の感情を、私の心に収めるのに必死だった。そして怒りが湧いてきた。怒りたいのは、私の方だ。


— —- —— ——- 
桜木町駅で声をかけられた時、私は彼だと気づかなかった。名前を言われて初めて思い出した。彼は小学校の時の転校生だった。通っていた大学は違ったが、同じ街だった。もしかして!?どこかで会ってたかもね!そして就職先も同じなんて!

彼は気のおけない友達だった。方言を隠す必要さえなかった。それなのに、「もう会わない」と彼は言い、10センチ程の長方形の包みを私に渡した。「これだけはお願いだから、もらってくれ!」


- — —- —— ——- 
娘と一緒に荷づくりをしていて、手に取った。アクアマリンのブレスレット。私はまた言葉を飲み込んだ。お元気ですか?




#お元気ですか  に参加させて頂きます。