見出し画像

1番にならないとダメなの。

冬には雪がたくさん降る。1時間の降雪量は、30センチから50センチ程。一日放っておくと、雪は1メートル以上にもなる。除雪車はいつも走っていたが、野原の上なんかはほったらかしだった。夏に背丈ほどに伸びた草ワラを通って、家に帰った。あの野原は、冬は粉砂糖の雪山になる。先生や親からは、そこに踏み入らないよう、キツく言われていた。雪山は背丈以上にもなり、埋もれたら最後、。が、、。が、である。そして日照時間は多い方だった。サンサンと照りつける太陽の光が雪に反射して、目が痛かった。みんないつも目を細めていた。雪合戦は、太陽に背を向けるが勝ちだった。あったかくて、明るくて、いたる所に粉砂糖の山。これ以上に楽しいことなんてあるだろうか!

学校の教室は、ひとクラス43人だった。生徒の机と椅子で一杯だった。それなのに、冬になると、大きなダルマストーブが、先生の机と生徒の間に置かれる。煙突が付いていた。あの大きなアルミ缶のようなヤカンが、ストーブの上に置かれていた。

後ろの席の生徒は、だからいつも寒い。休み時間になるや否や、速攻で教室の前にきて、ストーブにあたる。 よしこもすぐストーブに駆け寄った。ストーブの周りには、もう既に、4にんもいた。「入れて」「入れてー!」よしこは入り込む場所を見つけて、場所取りする。「あったかい!」よしこが笑った時、かなえがふたりのお抱えを連れて、よしこの後ろに立った。何が起こるんだろう!みんなは、固唾を飲んだ。まさこたけしはストーブからすぐ離れた。たけしは、学校帰りに、かなえのランドセルをずっと運ぶハメになったことがある。じゃんけんゲームは、かなえとお抱え二人で仕組まれていたと言われていた。まさこは、きつい事を言われて、泣きながら家に帰ったことがある。よしこりかと一緒に去ろうとした時、かなえに呼び止められた。「あんたは行きなさいよ!」と彼女はりかに向かって叫んだ。

今日の午後はスケート大会だった。スケートリンクは、直線が100メートルで、全長400メートルの長丸の形になっている。全校生徒の親たちがリンクの周りに雪に埋もれるように集まっている。大会新記録もでた。親たちの歓声やおしゃべりがうるさい。だから、出番じゃない生徒たちは、学校裏の雪山で遊んでいる。よしこもだ。出番になって、慌ててスケート靴を履いた。そしてスターターの声に従う。「いちについて」「ヨウイ」「ドン」

「あっ!!!」ゴール直前に、よしこは思い出した。ゴールまであと、2メートル程。急ブレーキをかけた。そして、かなえが一番でゴールしたのを見とどけた。


競技の後、よしこは先生に呼ばれた。かなえに何を言われたのか?と聞かれたけど、何も言われてないと答えた。かなえは怖いかい?意地悪じゃないかい?、、、と先生は優しく質問を重ねる。「もうゴールしたかと思って、ブレーキかけました。」とよしこは嘘をついた。

「かなえの母は、スパルタで有名なのよ。だから子供が意地悪くなる。」と母は言った。よしこは意地悪ってなんなのか分からなかった。「よしこ、それでいいんだ。」と言ったのは父だった。「友だちを助けたんだな。おまえは。」

 

画像1

ダルマストーブを囲いながら、かなえはよしこに言った。「一番取らないと、おかあさんに叩かれるから、私を一番にさせて」