食文化は、お母さんやお父さんから。
「ママ、ごはんが見つからないの。一緒に探してくれる?」
朝食ブッフェで、スクラブルエッグと焼かれたソーセージ、そしてちょっとフルーツサラダがのったお皿を手にした娘が、私の側に立って言った。子どもとの長い休暇は、いつも日本だった。だから、いつも、ごはんがあった。娘にとっては、これが初めての、ヨーロッパのホテルで過ごす休暇だった。
昔、職場で、あるダイエットが流行っていた。日本食ブームがヨーロッパに来るずっと前、20年ほど前の話だ。味付けを最小限にして、食材の味を楽しむダイエット。仕事の休憩時間には、みんなが何を料理したかを話していた。かぼちゃの甘煮、たくわん、焼き魚など。えっ?これってダイエット?私はこのダイエット本のレシピで、育ってきた。日本の普通の家庭料理が、ヨーロッパでは、ダイエットとして紹介されていたのだ。
しかし、このダイエットの評判は良く、痩せただけでなく、食材そのものの味を感じられるようになったと、みんなが言っていた。「昨日の夜は、野菜の下ごしらえをしたから、今日はソースもなし、塩もなしで食べるよ!」と、自慢げに話す同僚を、微笑ましく思っていた。
最近になって、umamiというドイツ語の単語を見かけるようになった。ドイツの国民的辞書Dudenでは、「甘くもなく、酸っぱくもなく、苦くもなく、塩辛くもない、味覚」と説明されている。どんな味覚かは、正しくドイツ語では説明できない。だから、昆布から取るブイヤーベースだと、私は簡単に言う。この味覚は、池田菊苗博士が、発見したそうである。彼は、1908年昆布からグルタミン酸を取り出すことに成功し、その味を「うま味」と名づけたということだ。
そのうま味を生かした料理が日本食だ。
私は、このうま味で育った。私の子どもも、このうま味で育つ。たとえ、日本に住んでいなくても。
食文化は、お母さん、もしくはお父さんの作る毎日のご飯から、伝承される。
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