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「色気」について考える 其ノ五 色気が邪魔をするとき

みなさん、こんにちは。 銀座 蔦屋書店で日本文化の担当をしている佐藤昇一です。

このnoteは、20年近く歌舞伎の舞台に立っていた、変わった経歴の本屋さんが書いています。めずらしいものをみつけたと思って、お付き合いいただけるとうれしいです。

ぜひ、お店にもいらしてください。お待ちしてます。そのおりは、投稿の感想をお聞かせ下さいね!

前回までのまとめ

今回のお話は、「色気」について考える 其ノ四  結髪にこめられた想い の続きにあたります。 歌舞伎の世界から足を洗って少し経った頃(本屋さんになるもっと前です)、美容師さん向けの媒体「cocoa paper」で「色気について」というお題で連載をはじめることに。

それから「cocoa paper」が休刊するまで1年間数か月、5回にわたって「色気」について考え続けました。今回はその5回目。ついに最終回!お題は「色気が邪魔をするとき」です。さて、どのような「色気」について語っているのでしょうか?

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其ノ五 色気が邪魔をするとき

昨年、敬愛する歌舞伎の先輩が舞台で大怪我をするという事故があリました。普段、私から連絡するような気安い間柄ではないのですが、その報を受けて思わずLINEでメッセージを送リました。

芝居から足を洗って、もうすぐ2年。思うようにならずくじけそうになった時、歌舞伎座で彼が芝居をしているのを思い出し、幕見席からこっそリ覗いたことがありました。大舞台で艶やかに踊リ、満場の観衆を魅了している姿を観て、自分も負けるものかと奮起しました。演技を通して自分を激励してくれた先輩に、あせらずにしっかりと怪我を治して、これからも素靖らしい演技をみせて欲しいということを伝えたかったのです。

まさかの返信

驚いたことに、すぐに返信が送られてきました。ただひと言、「ありがとう」と。それだけで、充分に伝わって来るものがありました。そのとき先輩は怪我を治すための手術を控えている大変な状況だったはずです。にもかかわらず、彼は自分に感謝の心を伝えようとしてくれた。そしてそのシンプルな5文字の言葉が、どれほど多くの言葉を重ねた文章よりも、私の心に響いたのでした。

ちらつく自意識

自分は普段からメールを書くのがどうも苦手で、つい身構えてしまうところがあります。LINEなども同様で、相手からは返信が遅いと言われてしまうこともしばしば。そんな私に妻はこう言うのです。「長々と、色気を出した文章を書こうとするからだよ」

この場合の色気というのは、人からよく思われたいという欲求のことでしょう。不惑も過ぎて恥ずかしいことですが、日常のちょっとしたメールを送る時にさえ、どこかにそんな自意識が残っていたのかもしれません。

色気も飾り気もないからこそ

演技においても日常においても、相手にわかってもらいたいという気持ちが募るほど、表現は過剰になりがちです。自分に向けられたまなざしをしっかりと受け止め、素直に応えるという誠実さ。その控えめな姿勢こそが、むしろ相手の心を打つ。

先輩が送ってくれた「色気」も飾リ気もない言の葉が、その舞台姿のように艶やかに光って見えました。

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これで最終回!?

今回で「色気」について考えた、「cocoa paper」での連載分は最終回となりました。お付き合いいただきまして、ありがとうございました。

でも、自分にとって「色気」というのは、生きる上でのテーマのひとつなのだと、今回の再掲を通して、あらためて思いました。なので、ここからは不定期ではありますが、このシリーズは続けていきたいと思っています。

みなさんも「色気」について思うことがあったら、教えてください。それをヒントに考えをまとめて、記事にできるかもしれません。

本屋さんが休業となった4月の終わりにはじめて、3か月と少し。先の見えないこの不安な時間を、このnoteをつづることで自分の過去をふり返り、今と未来に向き合う、準備のときにかえることができました。

思いのほかに多くの方に読んでもらえて、さらには、スキやフォロー、コメントやサポートまでいただいて、驚きと感謝でいっぱいです。すべてにご返信できなくてごめんなさい。ここで重ねて御礼申し上げます。ありがとうございます。

こつこつ投稿していきますので、これからもよろしくお願いします!

サポートいただけましたら、日頃の感謝のしるしとして、奥さんにはのりしおのポテチ、息子にはキャラメルポップコーンを送りたいと思います!