【卒業式】
「こんにちは、お久しぶりです」
受付で在校生の女の子から案内され、
小ホールのロビーの椅子に座っていると、
A井君が歩み寄ってきた。
直接会ったのはほぼ3年ぶり。
昨日は彼の、高校の卒業式だった。
A井君は、中学1年の時に友達と一緒に私の卓球クラブに
入会し中3の夏まで所属していた。
中学では体調の影響もあり、休みがちになったこともあった。
だけども卓球は大好きで、出来るだけ部活も、クラブも
頑張っていた。
その甲斐ありレギュラーにも選ばれ、団体戦で東北大会にも
出場した。
*
その後、近隣の私立高校に進み卓球部で頑張っている様子は、
顧問の先生から話を伺ったり、ときには大会での試合を遠くから
見守るぐらい。
高校2年の秋の新人戦で地区予選を突破し、県大会出場を決め
トーナメント表にも名前はあったが県大会の会場に姿は
なかった。
「長南さん、実は……」
顧問の先生曰く、中学時のように体調をくずし出席日数が足りず、
転校(編入)を余儀なくされてしまったということだった。
*
昨年末に、それまでその存在を知らなかった近県の高校から
封書が届いた。
開けるとそれは卒業式の招待状だった。
「え、なぜ、どうして私に」
我が息子の卒業式には出席したが、人様のお子さんの卒業式
は初めてだ。
*
受付に行くと私の名は恩師の欄に有った。
保護者ではないし他の肩書は思いつかないのでそこに連ねた
のだろう。
クラブに練習に来ていた中学時代も、格別目をかけた訳でもなく
高校時代はほとんど話をした記憶もない。(挨拶程度はあったか)
それでも彼の、晴れの場に招待してくれたことは嬉しい。
*
ブレザーにネクタイを締め、きりっとした姿のA井君は、
これからの進路のことなど明るく話をしてくれた。
専門学校に進み、福祉心理学を学び、福祉関係の仕事で貢献
したいと話すその姿はとても力強く見え、頼もしく思えた。
誰もが順風満帆とはいかないだろうが、新たな道に
一歩踏み出すA井君に幸あれと祈る。