想像通りの弟の末路
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[登場人物]
・私 (都会で夫と二人暮らし)
・夫
・お義母さん(夫の母・2023年秋から同居開始、要介護3)
・お義父さん(夫の父・地方でお義母さん、弟と3人暮らしだったが2023年夏前に他界)
・弟(夫の弟・お義父さんの死後、長年の無職を経て介護施設に勤務を始める・実家暮らし)
・叔父さん(3人兄弟のお義父さんの弟・妻と同地方で2人暮らし・子供なし)
・叔父さんの妻(叔母さんが2人出てくるので叔父さんの妻とする)
・叔母さん(3人兄弟のお義父さんの妹・嫁いで同地方で夫と2人暮らし)
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「〇〇(弟)ちゃんの様子がおかしくて大変だ」
鬼のように電話を鳴らしまくった叔父さんが、
夫に開口一番こう話したと言う。
夫が仕方なく内容を聞いたところ、
・立ってもふらついて倒れる
・雪が降る外に何時間も立ち尽くす
・家の墓がある山の中の方へ歩いて行こうとする
・ご飯を食べない
といった行動があり困っているという。
そもそも、なぜ叔父さんがこのような行動に気がついたのかというと、
弟が仕事を初めて少しした頃から弟は隣町の叔父さんの家に寝泊まりし、
叔父さんが仕事場へ車で送ったりしていたそうだ。
この事実は少し前から私達は知っていたが、
今にも崩れそうにボロボロな実家に危険を感じたのか、叔父さんがそうさせたらしく
自分の家に寝泊まりさせる他にも、弟が仕事で要るもの(介護時に着るジャージや靴など)を一緒に車に乗せて買い出してあげたりしていたことに、
40代の男の人の世話をそこまで焼く叔父さんに、やっぱり変、と思いながらも、
私はそっちで仲良くやってるならそれでいいと、何とも思っていなかった。
どうしたらいいかと叔父さんは夫に聞いてきたそうだが、
夫は
「それはもう精神科か心療内科に連れていかないといけない」
と伝えたが、叔父さんは、それはそうかも知れんけど、とまた弟の奇行の話を続け、自分達も年末で仕事が立て込んでいて、仕事をしないといけないのに弟から目が話せずに困っている、の一辺倒で、
病院に行かせるしかないという話を全く聞こうとしなかった。
それでも夫は
「こっちでは何もできないから病院に連れていって」
と突き放すように言い切って電話を切った。
ここだけを聞けば夫が冷たいように感じるかもしれない。
でもこれまでの夫の優しさを全て蔑ろにしてきた家族達に、
もう差し伸べる手は無い。
差し伸べれば、そのまま手を持って行かれて奈落に落とされる。
大袈裟かもしれないが、私と夫はそう思っている。
しかし、お義父さんの負の遺産を弟にも支払わせる事はもうこうなってはできない。
結局夫に全てのしかかった…
手を差し伸べずとも益々引きずり込まれて行く。
私は夫が本当に可哀想でたまらなくなった。
そもそも弟がこうなってしまう事はなんとなく予想していた。
聞けば高校卒業後、働きに出た事がないという。
43歳まで、親の年金で暮らして無職を貫いてきた人が、
叔父さんに「ここで仕事を見つけてきたから働かせてもらいなさい」とか言われて、突然働き出して、
周りの人とそんなにすぐにうまく行くわけがない。
働き始めた当初から弟の性格的に遅かれ早かれこうなるだろうと
私は予測していた。
働き先の社長とも話していた私は、よっぽど優しい世界に入れて少しずつ仕事をさせてもらえてるのかと信じ初めていたが、
やっぱりそんなできた話はなかった。
概ね仕事で行き詰まったか誰かに何か言われたか、パニックになるか思考が停止してしまったか、
仕事が続けられる精神ではなくなったのだろう。
聞けば仕事もすでに辞めたと言う。
数日後、普段メールなどのメッセージのやりとりを滅多にしてこない叔父さんから夫の携帯に深夜にLINEが入っていた。
翌朝これを見た夫。
夫「なにこれ。。。」
絶句する夫の携帯を見て私も絶句した。
「こんばんは、遅くにすみません。
〇〇(弟)ちゃんが行動や言ってる事がおかしくなってきててとても困っています。
今までの生活から環境が変わって、またお母さんもそちらに行ってしまってきっと寂しいんだと思う。
元々〇〇(弟)ちゃんはお母さんと一緒にそちらに行くことを希望していたと思います。
明後日○曜日で、〇〇(夫)がちょうど仕事も休みなので、何とか迎えに来てください。
仕事もたくさんあって睡眠不足になっています。
どうか、叔父さんと叔母さんを助けてください。
〇〇(弟)ちゃんが今一番落ち着くのは、お母さんとの生活だと思います。
どうかよろしくお願い致します。
費用の方もがんばります。
〇〇ちゃん(弟)を病院に連れて行かないといけないことはよくわかっていますが、昨日もめまいがして大変でした。どうか助けてください。」
叔父さん渾身の文章だったのかもしれないが、
私は冷ややかで、怒りを押し殺した目でそれを読んだ。
自分達の見方のようにつけて弟を可愛がり、
子供のように甲斐甲斐しく世話をしてやり、
弟はすごくがんばっている、兄(夫)は何も家のことをせず情けないと
養護してきた弟の精神が崩壊し手に負えなくなったら、
とにかく自分達が大変な目にあっている、疲弊していることをアピールし、
こちらに押し付けようとする。
そもそも、40代の、しかも私と同い年の中年男性を、
なぜ夫が養わないといけないのか。
どこまで家族の中でなんとかしようとするのか。
叔父さんが病院に連れていかない理由もわかる。
叔父さんは家族の中で精神科に行くような人間がいることを、
まわり近所に知られたくないからだ。
弟の尊厳というものを、そもそも考えていない。
自分の名前に傷をつけられたくない。それだけだ。
呆れ、そしてまた絶句した。
同じく呆れ、落胆する夫は
これから仕事の支度があるのにこんなLINE返してる暇なんかない!
と怒っていた。
「私が文章書いてあげるからちょっと貸して」
私は夫の携帯に返信する文章を打ち込み始めた。