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#20 シンバイオティクスは、便秘の救世主となるか?

現役の腸内細菌研究者がお届けする、腸内細菌相談室。
室長の鈴木大輔がお届けします。

今回のテーマは、シンバイオティクスと便秘です。シンバイオティクスという言葉は、プロバイオティクスと比べると馴染みのない言葉かもしれません。シンバイオティクスは、細菌と細菌の餌を同時に摂取することで、腸内環境の改善を図るものです

腸内環境の改善のために摂取する細菌をプロバイオティクスと呼び、腸内細菌の餌になるような食物繊維などの化合物をプレバイオティクスと呼びます。そして、プロバイオティクスとプレバイオティクスを同時に摂取するのが、シンバイオティクスなのです。

それでは、シンバイオティクスを摂取することで便秘の改善に取り組んだ研究をご紹介します!

この内容は、ポッドキャストでもお楽しみ頂けます。

シンバイオティクスの詳細

今回の研究では、プロバイオティクスとしてビフィズス菌三連活菌カプセル(Bifid Triple Viable Capsules)、プレバイオティクスとしてペクチンを摂取します。このプロバイオティクスには、Bifidobacterium、Lactobacillus、Enterococcus属菌が含まれています。いずれも乳酸菌に分類される種類です。ペクチンは、植物に含まれる多糖類で、食物繊維の一種として食品などに増粘多糖類としても添加されています。

これらビフィズス菌とペクチンを同時に摂取することで、シンバイオティクスとしての効果を期待しています。

試験と評価の方法

合計100人の便秘症を患う参加者を募り、シンバイオティクス摂取群とプラセボ群にランダムに振り分けます。最終的に、ドロップアウトした人を除いた48人のシンバイオティクス群と45人のプラセボ群を含む合計93人の患者が解析の対象になりました。シンバイオティクスまたはプラセボを1日2回、12週間、中身を伝えずに投与しました。

ここでの便秘症は、大腸通過遅延型便秘と呼ばれる便秘であり、便が硬かったり便を送る腸の動きが悪いことが原因です。

プラセボ群には、消化性のマルトデキストリンを与えます。マルトデキストリンとは、水溶性食物繊維の一種で、グルコースのみで構成されていて、デンプンと似た構造を持っています。難消化性では無いので、プレバイオティクスのような効果は期待されません。

参加者には、適切な食事と運動を含む健康的なライフスタイルを心がけ、試験期間中は他のプロバイオティクスと食物繊維を避けるように指示しています。

シンバイオティクスの有効性を評価する項目は、便秘の寛解率と改善率です。寛解率では、観察期間である4週目および12週目に週平均3回以上の自発的な排便が得られた参加者の割合を調べます。臨床的改善率は、4週目および12週目に平常時と比較して週平均1回以上の自発的な排便が増加した参加者の割合を調べます。また、その他の評価項目として、 1週間以内の排便回数 、ブリストール便形状尺度による便の硬さ、便の大腸通過時間(Colonic transit time: CTT)を測定します。

シンバイオティクスの効果は?

試験の結果、シンバイオティクス群では、4週目、12週目ともにプラセボ群に比べ、平均週3回以上の排便を達成した参加者が多く、シンバイオティクス群の臨床的寛解率は4週目で18名、12週目で22名に達していました。また、4週目と12週目では、シンバイオティクス群とプラセボ群で有意に症状が寛解していることが認められました。

最終的に、軽度から中等度の便秘患者において、12週目の臨床的寛解率と臨床的改善率はそれぞれ45.8%と64.6%に達しました。また、期間中、治療に関連する重篤な有害事象は認められませんでした。

プラセボ群と比較して、シンバイオティクス群の排便回数は1週間で有意に改善し、4週目と12週目には4.5±1.6と5.1±2.0に達しました。便の通過時間を解析した結果、シンバイオティクスを投与された参加者は、4週目および12週目にプラセボ群の参加者よりも通過時間が短く、これは腸管運動が改善されたことを示唆しています。

試験結果に対する満足度のアンケートも行っていて、シンバイオティクス群はプラセボ群に比べ、4週目だけでなく12週目でも有意に高いスコアを示し、より多くの参加者が治療に満足していることがわかりました。

その他の結果も併せてまとめると、シンバイオティクスを投与された患者は、便の回数の増加、便の硬さの改善、便通過時間の減少、便秘関連症状の改善が確認されました。

今回の結果は、排便回数が減少するタイプの便秘であり、排便が困難な便秘に当てはまるものです。また、健康的な食事等を指示されていることも、重要と言えるでしょう。

私は、この研究を見て衝撃を受けました。シンバイオティクスによって65%の被験者が便秘の症状を改善できる。これは、3人に1人が便秘の日本人にとって、吉報かもしれません。

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それでは、本日も一日、お疲れさまでした。

参考文献

Ding C, Ge X, Zhang X, Tian H, Wang H, Gu L, Gong J, Zhu W, Li N. Efficacy of Synbiotics in Patients with Slow Transit Constipation: A Prospective Randomized Trial. Nutrients. 2016 Sep 28;8(10):605. doi: 10.3390/nu8100605. PMID: 27690093; PMCID: PMC5083993.

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