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はじめてオフラインでマーダーミステリーを遊んでみて感じたこと

※この記事に特定のシナリオのネタバレ等はありません

遊ぶまでの経緯はこちら。

楽しく遊ばせてもらった

オフラインのマーダーミステリー体験はすごく楽しかった。オンラインは遊んだことが何度かあったが、オフラインは今回はじめてだった。ドキドキしたし、ちょっと泣きそうになったし、重要な決断もして、いかにもマーダーミステリーっぽい体験はさせてもらうことができた。感想戦も楽しかったし、嫌な思いもしなかった。

マーダーミステリー専門店の雰囲気がよかった。部屋の三方におしゃれなドアがあり、「なるほど、オフラインだから密談ルームがあるのか!」と思ったのもつかの間、GMに「このドアの先に部屋はなく壁があるだけなので、ドアだけ開けてこそこそ話してください」と言われたのは思わず笑ったが、現実的なビルの設計の中で非現実を再現する楽しい試みであり、いいなと思った。

GMは気のいいお姉さんが担当してくれた。場面によって照明の光量まで調整するのは臨場感の演出としてなるほどと思ったし、これは実際に体験して重要だと思ったのが、こちらの目を見て物語を話してくれる。文章としての意味はオフラインであろうがオンラインであろうが、同じシナリオなら同じ文章なのだろうけれど、こちらに向かって語りかけてくれるだけで、何かそこに一種の緊張感というか、世界観みたいなものが展開されていたのは間違いがなかった。何より、全力で楽しませようとしてくれているのは明らかだったし、感想戦の様子を見ていると、この店の仕事が、そしてマーダーミステリー楽しくて仕方ないんだろうなと思った。そのゲームを楽しそうにしている人がいて、それを目撃するのは本当に大事なことだ。

感染症対策でマスクをしていたからプレイヤーの表情がわかりづらいこともあったけれど、やっぱり人間というのは声以外にも情報をたくさん発している。情況が悪くなるとそのキャラクターのプレイヤーはやっぱりなんだか小さく見えたし、隠し事がある人は目が泳ぐ。ただ「うまく言えない」だけでも、色んな情報がプラスされて、「うまく言えない」の意味が変わる。これは実にオフラインらしいし、人間は面白いのだということを、改めて理解させてくれた。

さて、僕が楽しめたのはすごくいいことだったと思うのだけれど、では逆に、じゃあどうして僕は楽しく遊べたのだろうということを思わず考えてみたくなるのも僕である。僕はあらゆるゲームジャンルに興味があり、マーダーミステリーというジャンルそのものにも興味がある。「もしある条件が欠けていたら、この体験は楽しくなかったに違いない」というその条件を想像してみたくなった。

前提の共有

マーダーミステリーはプレイヤー全員が前提を共有する必要がある高度なゲームだ。前提の共有というのは、これは「参加者全員が楽しく卓を成立させる意識を持つ」ということと、「同じくらいのレベル感や温度感で卓を統一する」ことを指している。オフラインのマーダーミステリーを一回遊んだだけで急に解像度の高いことを言い出すじゃないかと思うだろうけれど、この原則はMOBAを楽しく遊ぶために十年近く僕が悪戦苦闘した事柄そのものでもある。

例えば自分が望まない結果を得てしまった時に他人の責任のせいにするプレイヤー、これは『League of Legends』における味方の行動に「?」ピンを連打する人間に相当するが、こういうプレイヤーを卓内に放り込めば、マーダーミステリーのゲーム体験は簡単に破壊できる。もし試合後にプレイの反省をするにしても、自分のプレイや話し方、情報の出し方で誰かの動きに干渉できたのかもしれない、など、自省に持ち込める人間でなければ、きっと軋轢を生む。他人のプレイがどれだけ自分とは違って気に食わなかろうが、それは他人の選択として尊重する必要があるし、その度量が必要だ。

そしてこれがどれだけ難しいことなのか、僕はよく知っている。GMのお姉さんがゲーム前に「マーダーミステリーは勝利を目指さない、物語を作るゲームだ」と強調したのは恐らくそういうことだ。推理要素を含んだゲーム性でありながら、完璧な推理を目的にするのではなく、勝利を目指さず、卓全員がその過程を楽しく遊ぶことを目標にする。そうすることでマーダーミステリーは成立するのだということを言っているわけだ。はっきりいって、これが出来るプレイヤーは世の中に決して多くない。だからこそMOBAではいつでも憎悪が渦巻いているし、世界が平和になることもない。

よくわからない人のよくわからない行動で自分のゲーム上の立場がすごく悪くなったりしたら、嫌な気持ちになるのはごく自然な感情だと思う。それを我慢できるのが一流のプレイヤーなのだと言いたくなってしまうけれど、それには高度な理解と高度な理性が必要だ。何より、自分も参加者なのだから、どんなプレイヤーが来たって自分にも楽しむ権利があるはずなのだ。

そういった意味では、今回プレイヤーを集めてくれた人が、気を利かせてメンバーを集めてくれた点には感謝しかない。これだけ円滑にゲームが進んで円滑に楽しめると言うのは、恐らくはすごいことなのだ。今回はそうした人脈に乗せてもらえたことは本当に大きかった。

ハードル

そういう意味では、マーダーミステリー専門店的な場所において、参加費が多少高めに設定されているのはいいことだなと思った。マーダーミステリーの皆で物語を作る性質が、同人即売会や有志のコミュニティイベント的な存在に似ているから、そこに嫌儲的な思想があることは想像に難くない。が、この体験を安価や無料で提供してしまうと、前提を共有できないプレイヤーが多くなり、不幸が産まれると思う。高いハードルが健全なコミュニティを育むというのは僕がずっと言っていることで、その最たるがちょっと高めの値段設定である。その金額感に文句を言わない余裕のある人たちが集まるというのもそうだし、それなりのお金を払うことで、この機会を大事にしたいという気持ちも共有できる。

なんならゲームマスターにチップできる文化があったらいいなと思った。仕事の人はさておき、ゲームマスターは遊べない割に負担が重すぎるように見える。

仮面舞踏会

まったく違う視点で驚いたのは、プレイヤーキャラクター同士の会話がたくさんあっても、それを演じる人間、プレイヤー同士の会話が大してなくセッションを終えて解散したのが新感覚だった。今までは知っている人間としかマーダーミステリーに触れたことがなかったから、知らない人と遊ぶとこういうことになるのか、とびっくりした。お互いがお互いの人間のことを知らないまま、キャラを演じて、ゲームを楽しみ、そして解散する。まるで仮面舞踏会だ。

事前に顔を合わせて集合し、挨拶をし、日程を合わせて遊ぶオフラインよりも、当日顔を合わせて即集合解散したオフラインの方がよっぽど匿名性があると感じたのだ。これはすごい体験である。思い出せる記憶はもっぱら"その人の顔"と、"プレイヤーキャラクターの行動"だ。

だからなんだとは言われると困るのだが、こういう匿名性、あるいはコミュニケーションをゲーム内のものと割り切ることが可能な後腐れのなさが、幅広い人に親しまれる理由なのかもなあ、とは思った。


なんにせよ、これ以上喋るにはもうちょっと遊んでみる必要があると思う。何しろ楽しかったわけだ。どうにかこうにかしてなんとか二回目以降に漕ぎつけたら、また何か書いてみたいと思う。

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