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悲劇のオーディション、そして

昨年の夏。
韓国で「X1」というグループが誕生した。
彼らが高尺ドームでデビューコンサートをしてから、1年が経つ。
あの日。彼ら自身、そしてドームで彼らのデビューの瞬間に立ち会ったペンもまた、1年後の彼らの姿を誰も想像出来なかったのではないかと思う。

去年の夏。
熱心に見ていたオーディション番組があった。
ProduceX101
韓国のM-netというテレビ局でやっていたオーディション番組だ。
Produce48という、女子の練習生のオーディション番組にはまり、私が見るProduceシリーズの二本目。K-popをしっかり聞いたのもこの番組だったし、練習生と呼ばれるシステムがあることも、この番組を通して知った。

とにかく、日本のアイドルにはない懸命さと、女子は特に日本のアイドルのお飾り的なふわふわした要素は全くなく、意志を持ち、意見を戦わせて上を目指す姿に、何度も胸を打たれた。男子は女子に比べて、最初は線の細さが気になったが、回を進める毎に、彼らの顔つきや態度や取り組みが変化していく様が面白くて、目が離せなくなった。

デビューする大変さは、韓国でも日本でもたいした変わりはない。
そして、デビューしてからプロとして仕事をコンスタントに貰えるようになることがもっと大変なことも同じだ。

私は、ミュージシャンのなりそこないとして、日本の芸能業界にフリーランスのアナウンサーという立場で籍をおき、ひょんなことからスカウトやマネジメント業務にも首を突っ込んでしまった経歴がある。
かれこれ30年以上もこの業界に籍を置いているので、業界の汚い部分も、魅了される部分もわかる。そして何より、自分自身が苦い思いや悔しい思いも沢山してきた。
縁あって、沢山の新人アーティストや大物アーティストに、インタビューという形でご一緒させて頂く機会もたくさんあった。かれこれ300名ほどのインタビューの中から経験則が生まれ、デビューして売れる売れないは、ほぼ予言できるまでになったので(笑)こうして、私の視点で意見を述べようと思った。

「売れる」人たちには共通項がある。
目に見える容姿とはあまり関係ない。上手く表現できないけれど、売れる人には、仰々しさや、あざとさなどとは無縁のその人自身から発せられる「明るくて太い、熱を発する芯ようなもの」があるのだ。
これは、芸能界に限らず、すべての道にはそうした人が存在する。
人はそれをオーラなどと呼ぶ人もいるけれど、こんなわけで私は、自分の中にある見分けサーチを起動しながら、視聴者の評価と答え合わせをしながら楽しみに番組を見ていた。

「ならび」という言葉

10代に音楽のオーディションを受けていた頃から、何度も聞いてきた「ならび」という言葉がある。
例えば、コンテストやイベントの場合、誰を最初に持ってくるか、誰を最後にもって来るかで、見え方が違うし、印象の残り方も違う。コンテストやイベントの華やかさも変わる。
いわば「ならび」は意識操作のようなものだ。
またある場合には、今回のメインはA社の花子さんだから、同じように見えるB社の葉子さんよりも、この場合はC社の陽子さんを使いましょう。
というものもある。これで、バランスが取れるからだ。
またあるいは、ギャランティの関係で今回は予算がないからB社の葉子さんはやめて、同じような雰囲気のD社の洋子さんにしようということもある。
これすべて、限られた予算と時間の中で、最高を極めるための方法だ。
テレビの場合には視聴率に影響し、スポンサーが取れるかどうかに繋がるわけだから、「ならび」を考えることが「勝ち」に繋がるという観点は当たり前に存在するし、日常茶飯事に行われている。

けれど、「ならび」の観点こそ、「癒着」や「情報操作」に深くかかわってしまう悪しき慣習の入り口であり、放送を面白くなくしている大きな原因なのだと私は思う。そしてこうしたことを背景に、事務所の「おねがい」が通ってしまう世界だからこそ「あなたの投票でデビューする子が決まります」という触れ込みのProduceシリーズは人気が出たのだとも思うのだ。

油断が招いた結果

けれど、最終結果が出た直後から「得票数が、ある数字の倍数になっている」という噂が、韓国メディアの中に広がっていった。
おかしい。これは絶対に得票操作が行われたに違いないと、周りが騒ぎはじめた。彼らが矢面に立たされた。
これはいつものように「売れるならび」を考え、そしてそれを利用したプロデューサーの油断が招いたものだったのではないか。
数字なんて気にする人はいないだろう。あるいは、売れてしまえば、そんな噂はきえていくに違いない。と思っていたのかもしれない。
けれどもそれは、違った。
プロデューサーが起訴され、余罪も見つかり、彼らは半年という活動に終止符を打つことを決めた。

彼らはピカいちだった

操作をしたプロデューサーに言いたいことはたくさんある。絶対にやってはいけないことをやった。そして前途有望な彼らを矢面に立たせ、苦しめた責任は重い。
けれど、彼が「最高のグループ」を作ったということは認めたいと思う。
それぞれが、互いを補い合い、音楽性の高い、そしてパフォーマンス力にも優れたここまでの新人グループは、きっとこれから先しばらくは出て来ない。なぜなら、彼らは「完璧な・ならび」だから。
一社でこの並びを作り出すのは不可能だから。
下記に彼らのデビュー曲「FLASH」を貼り付けておく。
You-tubeの視聴回数が1億回という金字塔を打ち立てている曲だ。

苦しみを越えて

彼らの憔悴が伝わってきた1月の解散から、それぞれの活動の再開まで。私はメンバー一人一人の動向をなんとなく追いかけながら行く末を見守ってきた。きっと、それぞれに残った傷は大きいだろうに、彼らは懸命に自分たちの道を模索して活動をしはじめている。
事務所間に入ってしまった溝は深いように見えるし、言いにくいことがあるようにも見える。
けれど、いつか彼らの口から、「X1があってよかった」と言える日が来ることを心から願っているし、彼らが苦しみを越えて今を生きられるように、そして、これからを切り開いていけるように、見守り続けていきたいと思う。それはきっと、私だけでなく、X1のペンたちの願いでもあるのではないかと思う。

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