「広告の制作をする仕事をしていたとき、デンマークのコペンハーゲンに滞在することがありました。」
行正り香著『まぜて焼くだけ 北欧からのやさしいお菓子』(講談社、2013)
東京はまだまだ暑いですが、夏の思い出をすこし。
なんどか、北欧を訪れたことがあります。
北欧5カ国のうち、デンマーク、フィンランド、スウェーデンに行きました。
デンマーク旅行は、留学中の初の「ひとり海外旅行」で、知らない国で何をどう楽しめばいいのか、検討もつかない状態でした。
ただ、泊まったユースホステルが異常に洗練されて美しかったことに、「これが北欧家具の本気か」とおどろき、ハムレット城に赴いて窓を通して色づく歪んだ光に簡単し、これまで避けてきた「洋梨」がとても美味しいことを知りました。。
フィンランドは、カンファレンス参加で訪れた国。
森の中にある施設に泊まり、食事はサーモンや何やら食べた気がしますが、毎回デザートを楽しみにしていたことを覚えています。
それから町の市場で食べたわかさぎの唐揚げの美味しかったこと(わたしは日本で食べたわかさぎが大の苦手で、吐き気を催すほどだったのですが)、シナモンロールが美味しかったこと。
夜のサウナで、サウナでほてったらそのまま湖まで駆けていって飛び込むこと。
いかにもフィンランドらしい、日本では絶対にできない経験でした。
そしてスウェーデン。
こちらはリンドグレーンの故郷を訪ねての旅でした。
田舎のご飯の美味しいこと、海鮮も野菜も豊富なこと、お菓子と紅茶が美味しかったことを覚えています。
3カ国だけですが、わたしの印象では、北欧は「デザートがとにかく美味しいところ」です。
この「おいしさ」は、フランスやオーストリアのお菓子のような洗練された美しさではなく、イタリアやスペインのような素材そのままの美味しさだけではなく、なんというか、「夏のよろこび」に満ちた素朴な美味しさに感じられました。
北国なので意外かもしれませんが、夏になれば気候も穏やかで過ごしやすく、特にベリー類が豊富にとれます。
森にはいれば、いくらでもベリーがとれる、という気さえするようなお国柄です。
そしてデザートの多くは、素朴なケーキやタルト生地に、ヨーグルトやクリームを塗って、山盛りのベリーを盛り付けるような、至って単純なものでした。
となりの森からとってきましたよ、と言わんばかりのみずみずしいベリーは、きらきらと輝いているようでした.
ベリー類の種類の豊富さと、値段の安さは、日本では考えられないほどです。
スーパーで売っているものですら安いのですから、わたしが子どもだったら、ベリーがいっぱい詰まった袋をかかえて、手をつっこんでベリーを鷲掴みにし、口の周りを赤や紫に染めながらもぐもぐと頬張ったことでしょう。
そのくらい、ベリーは夏の象徴であり、豊かな恵みでした。
この本で紹介されているお菓子も、ベリーをはじめナッツ類や果物をふんだんに使っています。
「やさしい」と形容されているのは、「作るのが簡単」というわけではなく(もちろん難しくもないのですが)、お菓子から伝わってくる空気感が、家庭的でよろこびのつまった「やさしさ」だからだと思います。
最近はめっきりお菓子作りをしなくなりましたが、そして北欧のレシピを気軽に作れるほど日本の果物は安くはないのですが、たまにはお菓子作りをして過ごす休みがあってもいいな、と改めて思ったのでした。