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「外書に曰く、疾風に勁草を知り、厳霜に貞木を識り、荒嵐に泰山を見る、と。」

わたしは「八咫烏」第一部のなかでは、これが一番好きかなぁ、と思います。
一見してわかりづらいのですが、これも一種の学園ものですよね。
若者たちの青春と友情、いいじゃないですか。

…… いやいや、こんな仕組まれた青春はイヤだ。

阿部智里著 『空棺の烏』(文藝春秋、2017)

前回『黄金の烏』で真の金烏である日嗣の御子に忠誠を誓った雪哉が何をしているかと思いきや、「勁草院」、日嗣の御子と宗家の近衛である山内衆になるための学舎に入るとな。
ひと喰い猿の侵入から1年も立たないうちに、呑気なことやな、と思ったら違った。

市柳や茂丸の人柄や個性ですっかり霞がちだけれど、雪哉はやばいやつだった。
いや、この巻からようやく、雪哉の「化け物」具合がわかってくるといってもいい。
これまでは奈月彦や長束がやばかったから、雪哉はふたりに翻弄されっぱなしで、真価を発揮していなかったんだろう。

2巻、3巻と徐々に本性をあらわにされてきた雪哉は、4巻にきて一気に主役級の化け物、嵐にも耐えうる「泰山」であることが明かされる。
お前もそっち側だったんかーい!
ですよ。
ほんと。

そんなエセ学園ものの中でも、雪哉が茂丸という心を許せる友と出会えたことは、僥倖
というべきでしょうね。
茂丸がいなければ、雪哉はただひとり、彼を畏れる同輩と、彼を盲信する後輩に囲まれて、孤独であり続けただろうから。

あとは明留と千早の関係性もすきですよ。
歴然とした身分があり、上のものには下のものの気持ちは理解できない。
下のものには上のものの気持ちは理解できない。
それを双方飲み込んで、互いに歩み寄ろうとするのはすごいことです。
明留のね、本当に悪気のないお坊ちゃんぷり、嫌いじゃないですよ。
ほんと、世間知らずのお坊ちゃんなんだなーと思う。
姉上があの真赭の薄なのだから、明留も嫌味のないいいお坊ちゃんなんですよね。
世間知らずなだけで。

あとは第二部最新刊までいってからこの巻を読むとですね……
おまえはスネイプ先生か、と思ったり。
「八咫烏」シリーズのすごいところは、誰が正義とか誰が悪とかではなくて、その人それぞれの信条があってそれに従っている、ということです。
前回の「八咫烏」のときも書きましたが、この作品の根底にあるのは「その忠誠はどこに向かっているのか」だと思います。
ほんと…… いままでにないタイプの作品よな、「八咫烏」って。

そんなわけで、第二部まで読んで第一部を読み直すのは大変に意義があります。
ぜひお読みください。

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