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解剖学の勉強方法

私の彫刻セミナーに参加する人たちで、解剖学を学んだことがなくて自信がないと言われる人たちが多いのですが、実は私自身もどこかで学んだ訳ではありません。

解剖学を正式に教えている教育機関が存在していると漠然と考えて、そこでちゃんと学ばなければ本当に勉強した事にならないとでも思っているのかもしれませんが、美大などでもちゃんと教えているところはかなり少ない様です。

自分が特別なのではなくて、世の中で解剖学をある程度知ってる人たちはほぼみんな独学と思っていいと思います。

だから正しい解剖学の勉強の仕方なんて存在しません。

その様な前提で、今回は私なりの解剖学の勉強の仕方を紹介したいと思います。


●目次●

1. 解剖学は本を読むだけでは身に付かない
2. 知識を得てから実践ではなく、実践して知識を得る
3. とりあえず制作する事を続ける
4. 中身を知り、表面を観る
5. 正しい解剖学に囚われない
6. 解剖学は立体を造って覚える
7. 筋肉よりも構造


1. 解剖学は本を読むだけでは身に付かない

勉強といえば、机に座って本を開き、それを一生懸命にメモったり覚えたりする。

そんな印象がありますね。

しかし私は机に座って解剖学の本をじっくり読んだことはほとんどありません。

だけどもそれなりの知識は頭に入っております。

解剖学の知識に関しては、今は本やネットで情報が出回ってるので、どこかで学ばなくても知識を得ることはいくらでもできますね。

知識を得る →  絵や造形の作品に反映する

これが多くの人が思っているであるだろう解剖学の勉強の正しいやり方です。

しかし私を含め私の所属する業界のアーティストは違う勉強方法をしてきました。

それは

絵や造形を始める →  知識を得る

という図式です。

全く反対ですね。



2. 知識を得てから実践ではなく、実践して知識を得る

本を読んだりして闇雲に解剖学を覚えるのではなく、まず作るものがあり、作る過程の中で必要な知識を覚えるというものです。

例えるならば、崖から落ちながら飛行機を組み立てるようなもの。

まずはとりあえず落ちてみる。

落ちてくから落ちないように、あれこれいじってみる。

つまり使いながら知識を得るのです。

自分の作品を作りながら、解剖学の本やモデルを参考にするのです。

使いながらの知識が非常に大切で、実践と言う経験に基づく知識なので非常に強いフィードバックで頭に知識が残ります。

これを経験知と呼びます。

解剖学を知っていればいずれ役に立つからとりあえず勉強しておこう。

まずは解剖学を勉強してから作品に取り掛かろう。

真っ直ぐ立って両腕を軽く広げた基本ポーズでまず骨や筋肉のつき方を理解しようとする。

このように勉強しても、ほぼ確実に忘れます。

すぐに使わないからです。

それは家で机に座ってバットの振り方を一生懸命頭で覚えてから素振りをするようなものですね。


3. とりあえず制作する事を続ける

今知識などなくてもいいのです。

とりあえず描いてみるなり造ってみることが大事なのです。

描きながら、造りながら解剖学の本を開き、そこにある知識を当てはめてみる。

作品のリアリティを増すために、制作しながら知識を得ていけばいいのです。

ニュートラルなポーズの解剖学の本や模型を見て、この筋肉のつき方で、右腕がこう上がったらどうなるかを考えながら作品に反映させます。

そうすると知識を覚えるだけでなく、同時に知識を使うという経験もするので、確実に身になると同時に、知識の応用力もついていきます。

最初にできるものは酷いものかもしれません。

それでもいいのです。

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いきなり完璧なものなどできるわけがないのです。知識が圧倒的に足りないのですから。笑

しかし次に作る作品は前よりも必ず良くなるはずです。

それは前回身につけた知識をもう少し使えるようになっているからです。

その様にして制作しながら本を見て確かめるという数をこなしているうちに、自然と知識は増えてきます。

さらにどんどん繰り返していくうちに、頭の中の知識が強化されていくのです。

制作を重ねるごとに表現力は上がっていくので、とにかく続ける事が重要です。


4. 中身を知り、表面を観る

筋肉を勉強して、どの筋肉がどの骨のどこについているかを知ることによって、人がどんなポーズをとった時でも、筋肉の変化を予測して表現することができるようになっていきます。

とことんリアリティを追求したいのであれば、そのような個々の筋肉のつき方という膨大な情報が必要になってきます。

それは非常に重要で必要不可欠な知識なのですが、私を含め、解剖学を勉強した時に陥ってしまう罠があります。

それは、個々の筋肉を表現しようとしすぎて筋肉お化けになってしまう傾向があるということです。

解剖学の本のように、実際の筋肉はそこまで整った形はしていないし、その上に脂肪や皮膚がのっているので、そこまで筋肉の個々の形が表面に全て反映されているわけではないのです。

解剖学の本を見て筋肉の形とついている場所を知る事は大切ですが、それがどのように表面に現れるのか、実際の人を観察する事がそれ以上に大切になるのです。

中身がどうなっているかの知識を持って、表面を見る。

個々の筋肉の形をどう自分なりにまとめるか。

この辺りのさじ加減が非常に難しいのですが、これは経験を重ねていくしかありませんね。



5. 正しい解剖学に囚われない

矛盾するようですが、解剖学を勉強する弊害は正しくしようとしてしまう事です。

なぜなら完璧な解剖学の形というものは存在しないからです。

よく聞かれるのが、”これは正しい形なのか?” という質問です。

100人人間がいれば、100通りの体型があり、これこそが正しい体型、正しい筋肉だというものはありません。

明らかに不自然であれば直した方がいいですが、正しい形をいくら追い求めても、そんなものは存在しないので、自分がやりたい感じで出来たのならば、そこでよしとするといいでしょう。

正しい筋肉のつき方はこうだから、こうしなければいけない。と思ってしまわないこと。

これは我々コマーシャルアートの世界で生きる者にとっては非常に重要なことで、いくらリアリティを追求し、正しさを追い求めたところで、それがかっこよくなければ、美しくなければ人々には受け入れられないのです。

正しい骨や筋肉はこうだからこうしなければいけない。こうでなければいけないという考え方は、自分の心を萎縮させてだんだん苦しくなっていきます。

そして何より魅力あるものを産み出せなくなってしまうのです。

解剖学的知識はあくまでも道具であり、その道具に振り回されてはいけないのです。

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何を表現したいのか?が根本にあって、その表現を助けるための解剖学です。

あなたの気持ちを根本にして、解剖学はあくまでもあなたの道具として使うべきなのです。

解剖学はあくまでもツールである。

解剖学を根本にして、”正しい解剖学はこうだから、この形はこうでなきゃいけない” に囚われてあなたの作品の魅力を潰さないようにしましょう。


6. 解剖学は立体を造って覚える

そして一番効率の良い勉強方法は、二次元でなく、実際に立体で筋肉を作る事です。

筋肉が骨に向かっていく立体的な奥行きとか、筋肉が他の筋肉に重なる立体的な角度とか、本に載ってる2次元の筋肉図を見ただけで理解するのはまず不可能です。

私のセミナーにも多くの2Dアーティストが参加しておりますが、皆一様に、立体はわかりやすいと口を揃えて言います。

解剖学を教えている美大の先生でも、絵だけではピンと来なかったある筋肉のつき方を、造形した事により理解出来たとのことです。

頭でわかっているのと、実感としてわかるのでは大きな違いなのです。

筋肉の構造を深くを覚えたいのなら実際に立体を見て、実際に作ってみる事が一番の近道です。

立体で覚えてみたら、必ず絵などの2次元にも確実に反映できる事でしょう。

7. 筋肉よりも構造

ここまで解剖学のことを書いておいてなんですが、人体表現の上で、筋肉よりももっと重要なことがあります。

それは構造です。

私のフィギュア指導経験の話です。

私の主催する彫刻セミナーでは、初めは胸像しか指導しておりませんでした。

それが参加者たちの、フィギュア(全身)を学びたいという多くの声のもとフィギュアクラスを開催したところ、これがまぁ受講生たちのあまりの出来の悪さに衝撃を受けたのでした。笑

中にはCGモデリングや造形のプロもいたのに、ここまで人体をわかっていなかったのか!と、とてつもない衝撃だったのでした。

知識量の不足が原因であったため、次からはヌードモデルを雇うことにしました。

人の形をよくわかっていない状態で作るのと、見本が目の前にあるのとでは雲泥の差で、当然結果はよくなったのですが、それでもまだ出来はひどいものでした。

理由を考えたところ、人は筋肉を見ると筋肉を造ってしまうという、当たり前のように聞こえることが弊害になってしまっていたからでした。

解剖学を意識すること、筋肉を意識することが、人体を制作する上で邪魔になってしまっていたのです。

意識してはいけないのではなくて、それを意識するあまり人体の全体構造が見えなくなってしまうんですね。

そこでさらに考えてたどり着いたクラスが、クイックフィギュアクラスというものでした。

それは1日で人体を4−5体、それを3日間続けるという過酷なクラスで、彫刻ブートキャンプとも呼ばれています。笑

筋肉をじっくり作る暇を与えないことにより、細かいことをせずに強制的に全体の形を取れるようになる仕組みです。

これが大当たりで、参加者の3日での成長はすごいものとなりました。

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解剖学は非常に大事なのですが、それに囚われて全体を見失わないようにしなければいけないのです。

それはもう訓練していくしかありませんね。

順序立てて勉強するのも大切だと言えます。

最後は自分のセミナーの宣伝になってしまいましたが、セミナーでの指導を通じて自分が得た、解剖学に関して非常に重要な考えのシェアなのでご容赦ください。


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