「おれの冒険はここまで」【ダイの大冒険を語りたい 第23回】5/1(土)第30話
※Facebook用に書いたものの転載です。当初は友人や趣味の仲間向けに『ダイの大冒険』を知ってほしい、というつもりで書いた記事となりますことをご了承ください。
「冒険」とは険しき状態に身を投じること。僕も子供の頃はご多分に漏れず冒険の旅に憧れたものでした。ドラゴンクエストの「魔物の跋扈する世界に飛び込んで魔王討伐のために幾多の試練を乗り越える旅」は、まさに「冒険」と言えるでしょう。かっこいいですよねー。剣と魔法の世界。旅の仲間と強い魔物たち。余裕があってはいけません。常に背伸びして頑張るのが「冒険」です。
この『ダイの大冒険』の素晴らしき主人公、勇者ダイは文字通り大冒険してきました。故郷の島より海を越え、さまざまな国に旅をし、魔王軍の強敵に打ち勝ってきました。絶望的な戦いにおいても勇気を失わず立ち向かい、仲間たちを勇気づけてきました。
もうひとり、主人公とともに島を旅立ったのが、魔法使いポップです。彼は勇者ダイとは対照的に臆病者の弱虫でした。
好きな女の子のマァムの前でも魔物から逃げ出し、泣いて殴られたことも。
しかし、何とかひとかけらの勇気を振り絞って軍団長と対峙したり
さらわれたマァムを救うため、疲労で倒れるまでダイと魔法修行したり
時には、一歩間違えれば窒息死の厳しい訓練を受けたり
マァムを守るために、魔王と一騎打ちの呪文勝負をしたり
親友ダイを守るために、軍団長クラスの強敵3人に単身挑んだり
いつもいつも実力に見合わない背伸びばかり。何度あわや死にかけたことか。彼にとってはダイよりも仲間の誰よりも背伸びして「冒険」していたのでしょう。
そして今や、かつてない絶体絶命の時です。圧倒的な力を誇る竜魔人バランに対し、記憶を消されたダイ、仲間は全員瀕死のボロボロ。いらぬ刺激をすれば仲間もろとも殺される。悔しくとも、ここは引くしかないのです。しかし、
「おれは...ダイに出会えてなかったら、いつも逃げ回って、強ぇヤツにペコペコして、口先ばっかで、なんにもできねえ最低の人間になってたにちがいねえんだ!!ダイに出会えておれたちの運命は変わった...!!ダイのおかげで、おれたちはここまでがんばってこれた...!!ダイはおれたちの心の支えなんだ!そのダイが…人間の敵になっちまうなんて…おれたちの目の前から消えちまうなんて…死んでもがまんがならねえっ!!」
情けない自分を変えてくれた「おれたちのダイ」それを失くすのは自分が死ぬことよりもつらい。その意志を貫くため、最後にとった手段が先生と同じ自己犠牲呪文。「死んでもがまんがならねえっ!」の言葉通り、死んでダイを守ろうとします。凡人が歯を食いしばって背伸びしてきた「冒険」はここまでです。
最後は笑顔で…
「あばよ…ダイ…おまえといろいろあったけど…楽しかったぜ…でも…」
「おれの冒険は…ここまでだぜ…!!」
臆病者の逃げ出し野郎、ポップの「冒険」はここまで。一緒にTVを観ていた我が子達は、泣いて見守っていましたが、何か感じ取ってくれたでしょうか。バランは人々の妬みによって結果として妻を殺され、人類への復讐を誓いました。ダイも超人的な力を人々に疎まれ迫害されるに違いありません。種としての人間は愚かで残酷です。しかし、自分を守るために死んでくれた友がいる、そのたった一つのことだけで、人の世を恨まずに生きていけるかもしれません。われわれの世界も同じではないでしょうか。たった一つの愛情や友情が絶望から助けてくれることがありますから。ごく一握りでも愛すべき人を見つけて…。
「たしかに人間はたまにひどいことをするよ。勝手なことをしたり、いじめたり、仲間外れにしたり。でも、中にはそうじゃない人間もいるんだ!臆病だけど、一生懸命がんばって正しいことをしようと努力している。それが、それがこいつだったのに!」