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【メリ】足デカ族の悲喜こもごも【クリ】
足がデカい。
幼子だった頃からデカい。
小学生の頃までは、なぜか足がデカいことが誇らしかった。自分だけ早く大人になれたようで嬉しかったんだろう。ふふふ、おれはもう大人の靴が履けるんだぞ!
喜びはしばらくして悲しみに変わる。
履ける靴がない。
女物の靴は大抵24.5cmまでしかない。
あっても25cmまで。
中学生になり、完全体へと成長したおれの足は25.5cm。
学校の規則で靴はローファーと指定されていたが、取り扱いは24.5cmまで。仕方がないのでメンズの、というよりビジネスシューズを履いて通学していた。もはや出勤だ。金をくれ。
幸い、メンズのファッションが好きだ。
本能的に好んでいるのか、身体のサイズに合わせた嗜好に成長したのかはわからんが、服も靴も男物を好んでいる。
だから別に困ることはないのだけれど、レディースの靴売り場に行って「ここにはお前のための商品はないぞ」という現実に遭遇するたび、しょんぼりはする。
社会は規格の内側にいる人間に合わせてデザインされており、外側にいる人間は「いない」ことにされる。
このしょんぼりは、自分が規格外に属することに対する悲しみではなく、規格外という存在そのもの、そして、普段の自分は規格の内側に属しているがゆえに、規格の外側があることに気づいてすらいないだろうという己の無知と無力に対する虚無に近いと認識している。
靴くらいどうってことないが、どうってことないでは済まされない線引の外側に立たされている人がいるのだ。
でもまぁ、社会が「わたし用の枠」を用意してくれなくても生きていかねばならんことには変わりがないので、無いなら無いでなんとかしようと試みたり、ときには0から作ってみたり、規格外だと「自分でなんとかする」機会が(強制的ではあるが)増えるので、それが面白いっちゃ面白い。面倒くさいっちゃ面倒くさいけど。
なんにせよ、足がデカいくらいじゃ社会にブーたれる資格はない。それでもおれはブーたれる。足がデカい人間にも女物の靴を履かせてくれブー。
そんなこんなでときはクリスマス。
脱無職をしてひと月あまり。
自分へのご褒美も兼ねて、自分で自分にクリスマスプレゼントをあげることに。おれプロデュースのセルフクリスマスパーティー。
オフィス向けの真面目な装いの手持ちが少なく、このひと月は誤魔化しながら凌いできたので、ここらで真面目な革靴を用意したい。
ネットで大きいサイズの靴で条件を絞り込み、革靴を検索。いい感じに好みのものを見つけたので、早速店舗に足を運んで試着することに。ルンルン。
もしもし店員さん、これの25.5cmを見せてくださいな。
すると店員さんは申し訳なさそうに、
こちらの商品は25cmまでしかないんです〜とおっしゃる。
…( ꙭ)!
だってネットで「大きいサイズに対応」って書いてあったのに…!
そして気づく。世間は、25cmを「大きいサイズ」として認識している。そうだよね、普通24.5cmまでだもんね、25cmまで対応してたら十分大きいよね。
そんなわけないだろ。
じゃあ25.5cmの足はなんて表現すればいいんだ?
超大きいサイズ?ギガントフット??
お前ら全員踏み潰してやろうか!!!
どうして忘れていたんだろう。おれは悲しき足デカ族。足の小さき民たちの世界に居場所なんてなかったんだ。おれの心の巨人が地ならしを始める前に店を立ち去る。
心に負ったダメージを癒すために回復スポットへ移動。長く足デカ族をやっているから、傷ついた自分を癒す方法も心得ている。
こんにちはメンズエリア。
おれを受け入れてくれたも。
ちょっと気になっていた靴下屋さんに入る。
ここでは25〜27cmが最もポピュラーなサイズとして、我が物顔で売り場に鎮座してらっしゃる。
みんなが私に「買って〜」と訴えてくる。
選び放題。これがマジョリティの圧倒的権力。
悦に浸りながら靴下を眺める。靴に比べると靴下は安い。テンションが上がる。冷静に考えれば、靴下としては相当なお値段であることに気づけたはず。けれどもこちらは力を得たばかりの愚かな権力者。熱に浮かされ、視野が狭くなっていることに気づけない。
二足くださいな!
店員さんは開口一番、「こちら、プレゼント用ですよね?」と微笑みかけてくる。
こちらもにっこり「はい」と返す。
そうです、プレゼント用です。
贈り主も贈り先も自分ですけど。
ギフト用ラッピングはいかがなさいますか〜とアレコレ訊かれる。包装紙やらリボンの色やらを選べるらしい。おれ好みのものをチョイス。これは喜ぶぞ〜、おれが!
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ところで結局オフィス向けの真面目な装いが充実しなかった。これからも誤魔化しながら凌ぐしかない。今年ももう終わる。来年も誤魔化しながら生きてゆこうぞ。
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