韓国一人旅③
君は裸でどこまでできる。
私は他人に見られてもおかしくない場所で、体全体に塗りたくられた泥を乾かすところまではできた。非日常的だったので乗り越えられた。
なら、日常動作のどこまで裸でできるのか。
裸で飲食。(さっき餅を食わされた)
裸で掃除。(さっき体の泥を流しながら、ほぼ裸のヨンピルさんが床を掃除していた)
私は階段を登ったことがなかった。もちろん、裸ででの話だ。
ようやっとチュソクの餅を飲み下すと、お姉さんから2階へ上がれと指示がとぶ。
「お客がいくよ!!!」と、お姉さんが2階に声をかける。
私、何も着ていないのに?このまま裸で階段を登るの?この階段の先に何があるかわからないのに?裸で?本当に?と、恐る恐る階段を登る。一段登るだけで自分の贅肉が、揺れるのがわかる。裸であるだけで、こんな日常的な動作が新鮮なのだから面白い。2階に辿り着くと、不安を吹き消すほどに、ものすごマッサージうまそお母さんが待っていた。そのままベッドに誘われ横になると、やはり凄ざわのマッサージのうまさに、私は堪えていた眠気のままに瞬時に眠りについた。
目を覚ましても、すぐには頭が回らなかった。眠り込んだ寝起きの脳みそには、水分が行き渡っていない。乾いた感触があった。
なのに、起き上がると身体が軽い。余分なものが取り払われたような、頭を横に動かすだけでも軽い。
この異様な軽さに驚きながら、再び階段を裸で降りる。
登りに感じた一段ごとの重力がない、さらさらと階段を降り、足捌きのスムーズさに足のマッサージもお願いした事を思い出す。すごい、すごいぞ。なんだ、走り出せそうだ。今なら裸で走る、までは出来る。
感動の中、階下のお姉さんを探すと、お姉さんは実家でする昼寝くらいくつろいでソファで寝ていた。
私の気配で起きたのか、
「おかえりなさい〜気持ちよかったですか?寝られた??」
と悪びれない。気持ち良い。
「寝ました!!(お姉さんに負けないくらい)本当にスッキリです!!!足のマッサージ勧めてくれてありがとうございます!」
と答えると、お姉さんはわたしに近寄りながら、
「ねえ、顔小さくなってるから見て!!!!かわいい!!!!」
と、これまたまっすぐ褒めてくれる。
う、嬉しい…嘘でも本当でも、この歳でかわいいの嬉しい…と、鏡を振り返ると確かに、これまでの人生でもない程、むくみが無く小顔に仕上がっていた。思わず
「た、たしかに、これは小さい」
と、自画自賛してしまうほどだった。
お姉さんがくれた黒豆のお茶を飲みながら、そろそろみんなともお別れの時間だ…と思うと何だか少し寂しくなる。お姉さんと一対一で会話すると、お姉さんが日本語で話かてくれていることがわかる。言語の壁超越コミュニケーションはずいぶん、私に寄り添っていただいたものだったんだろう。それでも疲労を感じており早く一人になりたいと思っている。何だか現金なものである。
温かく見送ってもらい、店を出ると雨は止んでおり時間は16時過ぎだった。
ここからホテルまでの経路内に、行ってみたかった街「聖水(ソンス)」があるらしい。夕飯までは早いので、聖水のデリムカフェを目指してみようと思いつく。
成り行きで向かったソンスは、いろんな世代と国籍の人がおり、すぐ溶け込む事ができた。韓国のおしゃれなカフェで美味しいコーヒーを堪能するも、正直、ここは日本とあまり変わらないと思う。わたしが求めてるのは、なんだったのか少しわからなくなる。これは来てみないととわからないことだった。
ホテルにチェックインし、夕飯を買いに隣駅のデパートまで足を伸ばすことにする。
たどり着いたロッテデパートのそのでかさたるや。
2023年の夏、私はディズニープラスで配信されている韓国ドラマ「ムービング」にハマっていた。大変面白く良いドラマなので、未見の方はぜひご覧いただきたい。
そんな中でロッテデパートのエスカレーターを登りながら、降り車線を何気なしに目を向けていると、なんとなく知った顔の人が通り過ぎる。韓国で知り合いとすれ違うこともあるかと、一瞬思考停止すると同時に、いや、今の方は、ムービングの怪しい高校教師役のチョンソクホさんじゃない?!!!!!(※サムネイルの方です)関口宏のご子息に似ているチョンソクホさん、いい脇役で色んなドラマに出てくるチョンソクホさん、マスクで顔を半分隠れていたけど眉毛の印象が強くて、ちょっとしたミーハーには見つけられてしまうだろうチョンソクホさんだよ!!!!??
チョンソクホさん発見により、興奮し、まっすぐ歩き続けた結果、デパート内で迷子になった。
チョンソクホさんのことは見つけられたくせに、夕飯がテイクアウトできるデパ地下を見つけられない。一生見つからないかもと彷徨い…来た駅にも一生戻れないかもと彷徨い歩き、夕飯を買いホテルに戻れた時には20時を過ぎていた。チャムシルのロッテデパートめちゃめちゃデカい。
ホテルのテレビを見ながら夕飯を腹減りに任せてかっこみ、風呂に入り寝て起きると、
前日のマッサージによる浮腫なしが嘘の、顔浮腫女になっていた。
小顔のあたしグッバイ。
それでも腹は減るので朝食をとりにホテルの朝食会場へいくと、他のホテル滞在者は、意外と韓国人が多いことに驚く。なんとなく韓国人のふりをして朝食をとってみる。意味はない。そして、チェックアウトまでの時間、この旅のでかい目標の一つであった、
「タルンイ(レンタサイクル)」に挑戦してきた。
オリンピック公園の中のホテルにいて、オリンピック公園をどうにかして見て回るには、タルンイしかない。アイドルのコンテンツで、在韓のアイドルがタルンイ乗車に手間取っているのを見て、外国人にはハードルが高いのかもとビビっていたが、びっくりするくらいスムーズに借りられた。アプリをダウンロードして、自転車についているQRコードを読み取れば、勝手にアプリが色々考えてくれる。時速13キロまでしか出ないように設定されており、走った距離、位置などアプリ上で全て確認できる。クレジットカードを紐付けて、走った分で精算してくれる。地区内であればどこに乗り捨てても大丈夫。なんだそれ、すごいな…とにかく、誰でもできるほど簡単なのだ。なのに、あんなにアイドルが手間取っていたのを思い返すと、アイドルって大変なんだなと思う。
朝9時過ぎのオリンピック公園にはわんさか人がいた。昨日のハンガンの比でなく人が出ている。中年男性と中年女性がわんさか散歩していた。このわたくしが少し平均年齢を下げさせていただいてる様子の年齢層だ。なんとも不思議な雰囲気の中漕いだタルンイの穏やかさと、良い朝の風の中、オリンピック公園から、ヒョンジンくんの所属する、JYP本社社屋を目指す。
JYPまでチャリできた!!で各アイドルのセンイル企画(ファンによる誕生日祝い)で飾られている壁などの写真を撮り、隣のビルのスタバで一息つく。日曜朝のJYP社屋には動きはなく、何も収穫はなしかぁと、朝ごはんを食べて自転車を漕いだら、元気にトイレ行きたくなったわたしは特に意識せずにトイレに入った。
以下、この人って普通じゃなかったんだ…な表現が続きますので、ご了承ください。
韓国のトイレ事情は先にも書いた通り、水洗に紙を流せないところがあったりする。ただ、この旅で私はまだ一度も水洗不可に当たっていなかった。空港、駅、ホテル、デパートはどこも水洗可能であり、油断していたこともある。
そして、このスタバが水洗不可であった。水洗が不可な理由は、下水管の詰まりが起こりやすいというものらしいので、そのビルが水洗に未対応なのだろう。比較的大きいビルでもその取り扱いなのか…私は自分の尻を拭きながら、そして慎重にゴミ箱へトイレットペーパーを捨てながら思う。
「この隣のJYP本社ビルも、もしのもしかしたら水洗不可かもしれないじゃないのよ」
この魔物のような妄想が、アイドルのそれ事情を否応なしに想像することとなり、そして人類は皆同じ共同体であると思い当たるくらいの大飛躍の着地をするまで、なかなか醒めない妄想となった。
答えは出ない。
ただ、私はあのトイレのおかげで、彼らアイドルを同じ人として新鮮に身近に感じることができた。
人は言葉の壁を乗り越えることができるし、裸で階段も登れるし、自転車にも乗れるし、尻も拭ける。発見ばかりである。
トイレを完了させスタバを出て、JYP本社を思わせぶりに振り返りながら、先程までより晴れやかな気持ちで、先ほどまでより澄み渡ってるように感じる風景の中を、自転車を漕いでホテルへ帰った。
韓国二日目、幸先のいいスタートである。