サファリでプロのような野生動物写真を撮りたい⁉
動物や生態、環境等を知ることは基本
まずは動物の生態や行動パターン、各個体のテリトリーや季節的な動き、環境などを知ることが大事。このNoteのマガジン『サファリ取材の裏ばなし』や『誰も知らないヌーの大移動』を参考にしていただければと思います。
ある程度基本的な知識を頭に入れておいても、広大なサバンナにいると余りにも広すぎて漠然としていて、右も左も分からなくなってしまうかもしれません。そこで頼りになるのがドライバーさんです。
優秀なドライバーさんって?
プロのような凄い写真が撮りたいと大きなカメラを担いでサファリに臨む方々や、第二の人生はカメラマンという悠々自適な年配層から、しばしば「良いドライバーを知りませんか?」と聞かれます。
優秀なドライバーってどんな人?
プロのような写真を本気で撮りたいというなら“優秀なドライバ―”とは、コミュニケーションが取れる人だと思います。長年の付き合いも大事。
ドライバーは動物を追いかけるプロだけれど写真は撮りません。一般的な観光客であれば、動物が良く見える真正面が良いポジション。マサイマラNRのように車が殺到している中で動物の動きを先読みし、誰よりも早く良いポジションに車を停めてくれたら、そのドライバ―さんは優秀です。観光客にとって。
でも「ハンティングの決定的写真が撮れた!」というのは自己満足。プロのカメラマンは顧客満足なので、良い写真の意味合いが変わってくるのです。
私は旧東京写真大学で映像を勉強しましたがカメラマンではなく編集者です。そこで写真集を出版社から出したい(または自費出版で書店に並べたい)という相談を受けることもあるのですが、写真集を出したいのなら「すごい!」と言われる写真ではなく人を感動させる写真、心打たれる写真、野生のたくましさに感銘させられる写真、野生の厳しさに考えさせられる写真etc. 自然や動物を伝える写真が必要なのです。
例えば「チーターの子育て」に焦点を当て、母チーター目線で撮りたいのなら、「赤ちゃん可愛い~❤」という観光客とはアングルが違うと思います。
つまりチーターの子育てのどのような行動をどのような意図で狙っていて、どのような写真を撮りたいのかを前もってドライバーに伝えておかなくてはならない訳です。動物は動いているのでシャッターチャンスは一瞬。慌ててドライバーに「あっち行って!」「こっち!」などと叫んでも、ドライバーだって瞬時には動けません。ドライバーがカメラマンの意図を理解していれば、観光客が喜ぶ真正面には車を回さず、それ相応の場所を選んでくれるはずです。
ドライバーさんとのマメなコミュニケーション。ドライバー任せではなく、前もってドライバーさんと打ち合わせをしておかないとダメなんです。私もコミュニケーション不足で数々の失敗をしました。そのためにも動物の生態等を知っておくことが大切なんです。チーターの子育てとライオンの子育ての違いは?どのように子供を守るの?どのようにハンティングを学ばせるの?etc. もちろんそれを知らなければ人に伝える写真は撮れませんし、既に本やネット、テレビなどで知られている内容だったら、本(写真集)として出版するのは難しいでしょう。カメラマン本人の観察力、洞察力や視点、語り方が大事なんです。
でもそれは観光客には難しい。そこでプロのような写真(モドキ)を撮るひとつの作戦としては、現場で動物の動きを追うだけでなく、プロカメラマンの動きを観察すると色んな事が見えてきますよ。
プロのカメラマンは観光客とは全く違う動きをしている
マサイマラNRやセレンゲティNPでは、ライオンやチーターの回りには大きなカメラを持った人がたくさんいます。でもプロかアマチュアかは見ているとなんとなく分かります。
観光客は目の前の動物に何か動きがないかを見ています。でも被写体の事をちゃんと分かっているカメラマンは「当分動きはないな」とある程度分かっているので余裕です。そして彼らの目線は目の前の動物ではなく、周辺の様子なのです。周りがどのような状況かをまずは把握しておきます。足跡、食痕、草丈、風向きetc.。そして例えば寝ているライオンが顔を上げたら「やった!」とばかりにシャッターを切りますよね。そんな時プロのカメラマンは顔を上げたライオンなど見ず、その目線の先を追っています。観光客とは明らかに動きが違うんです。
他にも例えばライオンの回りに車が殺到している時に、少し離れた所で悠々としている車がいるかもしれません。その車をよく見てください。たぶん車の窓枠にカメラを固定する脚やクッションが備え付けられています。プロカメラマンの車ですね。
先日リバーラインフォレストでヒョウがリードバックを狙っているシーンに出くわしました。川の土手でリードバックの小さな群れがしきりに警戒音を鳴らしていますが、ヒョウは土手の下にいて見えません。
このとき車は川のこちら岸(リードバックがいる方)に集まっていました。でもあちら岸にも1台だけ停まっていて、よく見るとその車に乗っているのはプロカメラマンっぽかったのです。そこで私はドライバーさんに「あっち岸に行ってみない?」と提案しました。ヒョウの様子は土手の下なのでまったく分かりませんが、ずっとこの被写体(このヒョウ)を狙い続けているカメラマンなら、このヒョウの行動パターンを熟知してあちら岸で待っているのかもしれません。
そこで車を動かそうとした瞬間、ヒョウがいきなり土手から現われてリードバックに突進しました。突然で撮影は失敗。でもヒョウは本気モードではなくハンティングも失敗でした。
その後ヒョウはあちら岸に腰を下ろしました。ずっとあちら岸で待っていたカメラマンは見抜いていたのかもしれません。
こんなこともありました。母ライオンとその子供達の小さなストーリーです。まずこちらをお読みください。
ハンティングのあと、周りに集まっていた車はハンティングをしなかった2頭のメスライオンがいる方角に行ってしまったのですが、私はこの近くにハンティングに成功したメスの赤ちゃんがいるに違いないと思い、草むらに消えた1頭を追って逆方向に行くようドライバーさんに頼んだのです。失敗するかなと一抹の不安はあったものの、逆方向に進むと1台の車が停まっていました。窓枠にはカメラを固定する機材があり、車に乗っている人は脚を投げ出してリラックス。いかにも自分が捕えたいシーンだけを待っているプロカメラマン。これは当たりだなと確信しました。
読みは当たって赤ちゃんが4頭現れました。カメラマンは子供達の隠れ家に張り込んで母親の帰りを待っていたのでしょう。
プロの写真は技術だけでなく伝える力
私はSNSで「サファリ仲間募集」をして、見知らぬ人と車代をシェアしてサファリをすることがあります。ゲームドライブのときは動物の生態や行動パターン、自然環境と動物との繋がり、動物の探し方等をお話しするのですが、すると初めてサファリをする人でも面白がって自分で動物を探し始めるのです。
3日目にもなると普通シマウマやガゼルでは動じなくなります。ガゼルが1頭ポツンと立っている程度だとスルー。ところがサファリ仲間はそのガゼルの目線の先を探したんです。これ、相当サファリ通がやることです(笑)。ガゼルの視線の先の草間にはライオンが寝ていました。
いくら腕の良いドライバーでも運転しながらだとライオンを見逃すことはあるし、カメラマンであれば単にライオンのスゴイ写真が撮れれば良いわけではなく、野生動物やサバンナのストーリー、感動を伝える写真が必要です。草間で寝ているだけのライオンはつまらないけれど、それをジッと見つめるガゼルがいる。何かが起きるのか?ここはスルーしないで観察しないとね。
実際に自分の目で見て観察し、誰も語らない、自分だけが語れる野生動物の賢さや強さを“写真”という媒体で伝えるからこそ、プロの写真には感動があるわけです。
「すごい!」と言われる写真を撮りたかったら、まず高性能のカメラを。そして真正面に車を付けてくれる慣れたドライバーを見つけること。ハンティングなどすごい写真が撮れると「やった!」って感じで楽しいです。サファリってやめられません♪
※でも動物に近寄りすぎたりハンティングの邪魔をしてまで良いポジションをとるドライバーはダメなドライバーです!たとえスゴイ写真を撮りたくてもNGです。
プロのような写真を撮りたかったら、自然、動物、環境etc.の知識を増やして、その知識の先にあるものを探り、捕らえてくることです。ちょっと難しく感じるかもしれませんが、やり始めると動物や自然のたくましさ、賢さなどが深く分かってきて、サファリをするたびに新しい発見がある。サファリの深みにはまりますよ♪
繋がりの先を見る
私は『まるまるサファリの本』の取材を目的にサファリをしているのですが、最近はNote上で、サファリをもっと楽しくするための詳しく分かりやすい情報を載せることに燃えていて、「繋がりの先を見るとサファリが楽しくなる」というテーマで写真を撮っています。
上の写真は早朝のアンボセリNP。ハイエナは何をしているのでしょう?
私はこの行動を「ハイエナの朝のパトロール」と呼んでいます。夜の間ライオンは自分達のテリトリーを主張するために唸り声を上げたりオシッコの匂いを付けてマーキングをしています。朝のゲームドライブの時間にハイエナがその匂いを嗅いで回っている光景をよく目にするのです。上の写真ではハイエナの尻尾が立ち上がっていますよね。興奮すると背中のタテガミやシッポが立ち上がるんです。ライオンの匂いがしたのでしょう。つまり昨夜ライオンがここでマーキング。近くにライオンがいるかも⁉と気分も盛り上がります。同乗のサファリ仲間に説明すると、さっそく皆でライオン探し。楽しいサファリになるし、みんなで探すと目撃率もアップ♪
良い写真は人によって様々ですが、いずれにしても基本は動物や自然を知ること(『まるまるサファリの本』に満載。出版はもう少し待ってください!)。
もちろんチーターが見たい、ライオンの赤ちゃんを撮りたいなどの希望があるなら、ドライバーに伝えておくことも大事。マサイマラNRであれば有名なチーターのテリトリーや、どのライオンの群れが赤ちゃんを連れているかなどは、実はサファリ通やプロカメラマン、ドライバーは知っているのです。時間、距離的に可能なら探してくれると思います。
動物の真正面に固執せず、プロのカメラマンの動きに倣ってみるのも面白いかもしれませんよ!
※真正面や良いポジションに固執して、動物にハラスメントしている車が多数います。絶対やらないで!