主人の話。
まさか結婚するとは思わなかった。
親戚友人一同全員ひっくり返ったと思う。なんなら一番驚いていたのは私だ。
というわけで主人の話をする。
第一印象は、
なんて幸薄そうな男なんだ!
であった。
辛いことがあっても決して口にせず、黙って目を伏せる。
どう見ても相手が悪いようなことでも、感情を押し込めてしまう癖があるようだった。
優しいというよりは、人間とガチでやりあうこと、争うことに全く関心がなさそうだった。
平素から猫背気味なのもあるが、やや落ちた薄い肩と打ちひしがれたうなじの、短く刈られた髪の清潔感が実に良かった。
私は滅多に凹むことはないが、時々職場の人間?関係には消耗させられていた。
あそこは猿山だった気がする。
そんなときほど虚勢を張って肩で風をきるほうの人間である。
密かに怒りをモチベーションにして仕事の成果で圧倒的にギャフンと言わせるのがとても好きだった。
よって、素直にうなだれたりしょんぼりしたりする人間に対して老若男女問わず、清楚だなあ、なんかすっげえいいなあと思ったりする。
己にはない繊細な雰囲気に憧れるのだ。
だからといって私が幸せにしてやるぜ!とはカケラほども思わない。
けれども不幸であって欲しいとも、もちろん全く思わない。
辛いときには存分に目を伏せればいいじゃないかと思う。
真冬の朝の湖面のような悲しみは彼の内側にだけあるもので、私はその静謐を美しいと感じるのだ。
なかなかニュアンスを伝えるのが難しい。
結婚して、どうも主人は私に似てきた。
そういった我慢をかなりの割合で放棄するようになった。
冷静に腹をたてて理路整然と文句を言う。
次の日にはまた飄々と生きている。
実にいい傾向だなと思う。
でも時々、あの力なくうなだれた、すらりとしたうなじを懐かしく思い出すことがある。
そして、いやいや楽しげなのはいいことじゃないか!と大慌てで打ち消したりするのであった。
おいしいものを食べます。