あの海が見たい
テレビもネットも世の中も、矛盾だらけの絡まったコードみたいにごちゃごちゃしているので、目的もなく海へ行きたい、とふと思った。
和歌山に、お気に入りの砂浜がある。
地元ではそこそこ有名なビーチをもう少し南に下ったあたり。実は私も正確な地名がわからない。
ただ、専門学校時代の恩師に、卒業後連れて行って貰った場所で、私は一目でそこが大好きになった。地名がわからないので、記憶を頼りにナビをして、今の夫にも付き合い始めた頃にその場所を覚えて貰った。
潮の満ち引きによっては砂浜がなくなってしまうのだけれど、引き潮のときは海岸沿いの道路から石段を降りて、そのまま岩礁の上を歩いて砂浜まで行ける。
そんなに大きな砂浜ではないからなのか、夏場でも海水浴客などはほとんど見かけたことがない。そういう点でも穴場スポットだ。
海水は魚が見えるくらいには透き通っていて綺麗だし、砂浜に立って堤防の方を見ると、その先には山の斜面に広がるミカン畑が見える。
そのあたりでは、一袋にどっさり入った甘いミカンが、無人販売所で五百円で買える。
私の親戚は皆近くに住んでいるので、子供の頃から『田舎』というものに憧れがある。夏休みに毎年田舎へ帰るのだという友達が羨ましかった。
だからだろうか。
オンシーズンでも混雑がなく、海と山に囲まれた、未だに名前も知らないその場所が、私は毎年のように恋しくなる。
煩わしいことを全て忘れて、ただのんびり海を眺めたい。次に行くときは、見えた景色や聴こえた音、感じた匂いも全て文字にして、メモに残そうと思う。
日常には、『人』の声が溢れすぎている。