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『鬼を待つ』読書感想文
『鬼を待つ』読みました。
『鬼を待つ』著者 あさのあつこ
光文社 時代小説文庫 700円
江戸下町を舞台にした馴染みのある風情と「べらんめぃ」口調の軽快な江戸弁、そして次々に展開するストーリーが読者に考える隙を与えずどんどん読み進ませてくれる。
本書はシリーズ9作目ですが、過去の作品を読んでいなくても十分に楽しめる一冊でした。
話の序盤から多くの事件が起こり、これは自殺?猟奇殺人?怨恨?陰謀?様々な可能性をはらみながら広げられるお話の大風呂敷は最後華麗に畳まれてゆく。
特に最終章の怒涛の展開は気持ちよく、前半の事柄たちも繋がりを持ち、無駄なページのない作り込まれた時代推理小説でした。
この弥勒シリーズは江戸に生きる二人の男の物語で、もと人斬リでありながら森下町小間物問屋を営む遠野屋清之介と北町奉行所同心、木暮信次郎のダブル主人公で、今回は清之助がメイン。
この清之助がとても魅力的な人物で勝手にイメージするともう〰男前!✨✨✨
冒頭と巻末には生きる煌めきみたいなものを描いているけど、人の心に潜む鬼をテーマに書いているので、ほぼダークな展開ではあります。
この『鬼を待つ』というタイトルについて、あさのあつこ先生がエッセイを書いておられたので一部抜粋してみます。
人という生き物は、わたしが考えていた、あるいは感じていたよりずっと厄介で、複雑で、深くて暗い。書いても書いても、正体が掴めない。掴めないから書く。その繰り返し
〈中略〉
わたしは男たちの正体を知りたいと切望しながら、どこかでそれを恐れてもいるようなのです。今回『鬼を待つ』を書き上げたとき、ふっとそのことに気が付きました。いつか、彼らがわたしの予想もしなかった異形を現すようで、わたしが朧気(おぼろげ)でもこうあって欲しいと望む最終形態をいとも容易(たやす)く砕いてしまうようで、物語の枠組みさえ粉々となり消えてしまいそうで……そうなれば、私の手には負えなくなる。制御不能な荒ぶる生き物をどうにかする力は、わたしにはないのです。恐れながら、それでも、やはりそういう作品を待っている気がします。
ふむ。なんとなくはわかります。
今でも世界は、四苦八苦に満ちていて、その苦しみが人を鬼にする。小指の先ほどの小さなことが原因でも起こり得る危うさであり、鬼に魅入られてしまえば自制することは難しい怖さということなのかもしれません。