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コミュニティメンバーが自由に動けるように制約をデザインする発想

最近のコミューンコミュニティラボの研究では、メンバーのモチベーションにフォーカスに着目してきました。その結果として『モチベーションを左右するのはコミュニティメンバーの自律性・有能性・関係性』『メンバーがコミュニティ運営をサポートしてくれる条件は「動機・実行容易性・キッカケ」』といった成果が発表できたわけですね。

しかし、メンバーのアクションは一人ひとりの心理的な現象だけで誘発されているわけではありません。今回は、視線をメンバーの内側から外側に向けてみましょう。

どのような外部環境がメンバーの動きを規定するのでしょうか。コミュニティがどのような環境であれば、メンバーはコミュニティを一層楽しめて、コミュニティ運営者は成果を享受できるというWin-Winが実現するのでしょうか?

今回の研究成果の要約:
コミュニティにおけるメンバーのアクションは、自由にアクションできる一方で適切な制約が必要。ローレンス・レッシグが提唱した社会における人の行動を制約する4つの要素(法律、規範、市場、構造)を応用し、コミュニティにおける4つの制約要素を定義。
1. 規則(Rule):明文化された行動の基準。秩序維持、目的明確化、交流円滑化に寄与。
2. 文化(Culture):暗黙のノリや行動傾向。価値観共有、創造性の源泉、外部との差別化に寄与。
3. 誘因(Incentive):アクションへの多様な報酬。モチベーション向上、健全な競争、行動最適化に寄与。
4. 権限(Permission):アクセス権や肩書きの付与。役割明確化、自律性促進、リーダーシップ発揮に寄与。

これらの要素を適切に設計、運用することで、コミュニティメンバーのアクションを望ましい方向に導きつつ、コミュニティ全体の活性化が期待できる。

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自由を考えるために制約を考える

コミュニティを自由に楽しむためには、逆説的ですが「制約」が必要です。なんでもありの状況よりも、定められた制約の範囲内で何をしてもOKという状況のほうが、心置きなくアクションできるものです。

たとえば、オンラインコミュニティでなんでも投稿してOKにしてしまうとかえって投稿が発生しにくくなります。むしろ、テーマをいくつか決めておいたほうが、その制約のなかで自由にメンバーが投稿するようになります。

子どもの遊びやスポーツも、ルールがあってこそ成立します。制約がまったくない状況では人は自由に楽しめない。これは一般的に成り立つことだと考えていいでしょう。

では、人の行動を制約する要素には、どのようなものがあり得るのでしょうか?ここからはローレンス・レッシグさんが挙げた「4つの制約要素」を援用して考えを深めていきましょう。


レッシグの4つの制約要素


レッシグの4つの制約要素とは

ローレンス・レッシグさんはサイバー法の世界的権威で、インターネット時代の新しい著作権のあり方としての「Creative Commons」の策定にも関わっています。彼の専門分野である法律以外にも人のアクションを制約する要素があり、それらを整理して論じることで自由な社会の実現を目指していたのだと考えられます。その4つの要素とは以下のとおり。

①法律(Law)

法律は、公権力による制裁を制約の手段として用いるものです。例えば、日本の刑法235条にある窃盗罪は、「他人の財物を窃取した者」という条件に該当する場合、原則として「十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金」を科すことを定めています。

「懲役」は強制的に自由を奪うもの、「罰金」は強制的に財産を奪うものであり、いずれも誰もが避けたいと考える不利益です。不利益を回避するために盗みを控えるといったカタチで、法律は人々のアクションを制約するのです。この制約の効果は、人々の内面に法が浸透しているかどうかによって異なります。

現実には、次に述べる規範とも重複することが多くなります。それは、違法なアクションとされれば社会規範としても容認されにくくなるからです。逆に、規範として好ましくないとされるアクションが法律で規制されるということも起こり得ます。

②規範(Norm)

規範は、周囲の人々による社会的な制裁を制約の手段として用いるものです。例えば、他人のモノを盗んだ場合、周囲の人から「泥棒だ!」と非難され、社会的に排除されてしまう可能性があります。また、泥棒とまでいかなくても、友達が食べているお菓子を「一口ちょうだい」と言わずに勝手に食べたら評判がわるくなるかもしれません。

規範は法律ほど明文化されてはいませんが、「望ましい振る舞い」が周囲の一定数の人々に共有されていれば、周囲の目を意識することでアクションの制約となるのです。

前述の通り、規範と法律は重複する場合が多く、どちらも不利益をどの程度感じるか次第で制約になるかどうか変わってきます。ただし、制約を課す主体が公権力か周囲の人々かという違いがあります。

③市場(Market)

市場も制約の手段の一つです。具体的には、価格という形で人々のアクションを制約します。例えばパソコンを購入したい人にとっては、そのパソコンの価格の高低が入手できるかどうかが変化します。価格が100万円に設定されていれば、そのパソコンを購入するアクションをとる人は非常に限られるでしょう。このように、価格の高さはアクションの制約として機能するのです。

価格が低かったとしても数が少なく行列に並ばないと購入できないなど、大きな手間がかかる場合もまた人のアクションを制約します。

④構造(Architecture)

構造とは、操作可能な環境を指します。例えば、貴重品を金庫に入れて鍵をかけるとき、この防犯装置全般が構造に該当します。鍵を持たない人が物理的に指輪を取り出すことができないという点で、アクションの制約として機能します。

構造は制約の手段としては最も強力です。法律や規範のように人々がその存在を事前に認識している必要もありません。

※ここで言う「構造」は一般的には「アーキテクチャ」という表現が使われていますが、今回は伝わりやすさを重視して一般的な語彙に変換しました。

4つの制約要素で飲酒運転を減らそう

飲酒運転はダメ!というのは「規範」にあたります

4つの制約要素のまとめとして「飲酒運転」というアクションを減らすためにどんな制約が可能か考えてみましょう。あくまでクイズみたいなもので、現実的かどうかは一旦置いておきます。

  • 法律:飲酒運転を厳罰化する

  • 規範:飲酒運転のマイナスイメージを社会で醸成する

  • 市場:飲酒運転が多発するエリアの酒税を高くする

  • 構造:呼気のアルコールを検出したらアクセルをロック

いかがでしょうか。4つの制約要素によって人のアクションが規定されるイメージがしやすくなったかと思います。それではここから、話題をコミュニティに戻していきましょう。

メンバーのアクションを過度に制約するとコミュニティは冷め切ってしまいます。しかし、適切な制約によってかえって自由にアクションできるようになります。

ローレンス・レッシグさんの4つの制約要素は「制裁を与える」「不可能にする」といったネガティブな雰囲気があるので、コミュニティらしくポジティブな雰囲気のフレームワークに変換し、コミュニティ版の4つの制約条件について考えていきたいと思います。


コミュニティの4つの制約要素

社会において人がどういった制約を受けて行動しているのかを分析したものがローレンス・レッシグさんの4つの制約要素だとすれば、コミュニティを社会の特殊なバージョンとして捉えることで新しいバージョンの4つの制約要素が作れるはずです。各要素をコミュニティ版に変換すると以下のようになります。

「4つの制約要素」の変換

法律というほどの強制力はないですが、コミュニティには規則が定められています。規範というほど堅苦しくはないですが、コミュニティごとにノリとしての文化が醸成されています。市場というほどオープンではないですが、コミュニティ内部に多様な報酬が誘因として存在します。構造というほど広範な概念ではないですが、コミュニティメンバーにはそれぞれ権限が付与されています。

これが「コミュニティの4つの制約要素」です。各要素がどのようにコミュニティメンバーのアクションを制約もしくは活性化させているのか考えていきましょう。

①規則(Rule)

規則とは、「これはしてね」「これはしないでね」と明文化されたリストのことです。コミュニティに適切な規則があることで、以下のような効果があります。

  • 秩序の維持:規則は、メンバー間の関係性や行動の基準を明確にすることで、混乱やトラブルを防ぎ、コミュニティ内の秩序を維持します。これにより、メンバーは安心して活動に参加できます。

  • 目的の明確化:規則は、コミュニティの目的や価値観を反映しています。これにより、メンバーは共通の目標に向かって協力し、一体感を持って活動に取り組むことができます。

  • 交流の円滑化:規則に沿ってコミュニケーションを取ることで、メンバー間の意思疎通がスムーズになります。これは、協調性を高め、効果的な協働を可能にします。

適切な規則は、メンバーの行動を一定の範囲内で制約しつつも、秩序、目的意識、交流を促進することで、コミュニティの活性化に寄与します。

②文化(Culture)

文化とは、メンバー間で共有された暗黙的なノリや行動の傾向です。コミュニティに適切な文化が醸成されることで、以下のような効果があります。

  • 価値観の共有:文化は、コミュニティの価値観を反映しています。メンバーが同じ価値観を共有することで、お互いの行動を理解し、尊重し合えます。これは、コミュニティ内の協調性を高めます。

  • 創造性の源泉:文化は、メンバーに創造的なインスピレーションを与えます。共有された文化的背景の中で、新しいアイデアが生まれ、革新的な活動が展開される可能性があります。

  • 外部との差別化:独自の文化を持つことで、コミュニティは他との差別化を図ることができます。この独自性は、メンバーにコミュニティの価値を再認識させ、活動への積極的な参加を促します。

醸成された文化は、メンバーの行動を暗黙のうちに制約しつつも、価値観、創造性、差別化を促進することで、コミュニティ活動の活性化に寄与します。

③誘因(Incentive)

誘因とは、メンバーのアクションに対する多様な報酬(Ex. 金銭、ポイント、感謝、承認など)です。コミュニティに誘因が存在することで、以下のような効果があります。

  • モチベーションの向上:誘因は、メンバーが特定の行動を取るためのモチベーションを与えます。多様な報酬という誘因によって、メンバーはコミュニティ活動により積極的に参加するようになります。

  • 健全な競争の促進:適度な競争を促す誘因は、メンバーの能力を引き出し、パフォーマンスの向上につながります。これは、コミュニティ全体の活性化に寄与します。

  • 行動の最適化:誘因は、コミュニティにとって望ましい行動を促すように設計されます。これにより、メンバーの行動が制約され、コミュニティの目的に沿った形で活動が展開されます。

誘因の存在は、メンバーの行動を一定の方向に導きつつ、動機づけ、競争、行動最適化を促進することで、コミュニティ活動の活性化に寄与します。ただし、過度な競争や不公平感を生まないように誘因の設計には注意が必要です。モチベーションについては以下のnote記事も参考になりそうです。

④権限(Permission)

権限とは、メンバーに付与されるアクセス権(Ex. イベントページを作成できる、投稿できるなど)や肩書き(Ex. アンバサダー、部長など)のことです。メンバーに適切な権限が付与されることで、以下のような効果があります。

  • 役割の明確化:権限は、メンバーの役割と責任を明確にします。各メンバーが自分の権限の範囲内で行動することで、コミュニティ内の秩序が維持され、効率的な活動が可能になります。

  • 自律性の促進:あらゆるメンバーは、権限の範囲内で自分の判断で行動することができます。この自律性は、メンバーの主体性を引き出し、自主的な活動を促進します。

  • リーダーシップの発揮:特別な権限を与えられたメンバーは、リーダーシップを発揮する機会を得ます。これは、コミュニティの将来を担う人材の育成にもつながります。

付与された権限は、メンバーの行動を一定の範囲内で制約しつつも、役割の明確化、自律性、リーダーシップ発揮の促進を通じて、コミュニティ活動の活性化に寄与します。ただし、権限の設定には注意が必要であり、過度な権限集中やその乱用を防ぐ必要が出てくるケースもあります。


本当にそれだけか?

「規則」「文化」「誘因」「権限」がコミュニティの4つの制約要素である、と考えてきましたが、それだけでしょうか?追加で検討してみましょう。

たとえば、コミュニティに「どんなメンバーが集まっているか」によってもメンバーのアクションが変わってきます。ただ、これは集まっているメンバーによって「文化」が醸成され、それによって行動が制約されると考えることができます。

あるいは、コミュニティにおけるメンバー同士の「つながりの多さ」によっても、メンバーのアクションが変わってきます。こちらも、他のメンバーとのつながりや感情的な報酬が「誘因」になると考えることもできるでしょう。

もちろんこれでコミュニティにおける制約や活性化について全てを網羅できているわけではないですが、大枠でコミュニティを捉える役にたつフレームワークにはなっているように思います。


この研究成果の活かし方

コミュニティを制約し、同時に活性化もする4つの要素を考えてきました。コミュニティの企画、イベントの実施、コンテンツの投稿などについて、メンバーとのコミュニケーションを最適化する参考になれば嬉しいです!

また、コミュニティにおいて「規則」を定め、「文化」を育み、 「誘因」を仕込み、「権限」を付与することの重要性について考え直すキッカケにもなればと思います。

最後に「コミュニティの4つの制約要素」をおさらいしてみましょう。ここまで読んでいただいてありがとうございました!


コミュニティの4つの制約要素



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黒田悠介@ Commune Community Lab 所長
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