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「最後の決闘裁判」(2021年)

なかなかおもしろかった。
監督はリドリー・スコット。彼が監督した「グラディエーター」のような壮大な物語ではなく、むしろ元ネタになっている黒澤明の「羅生門」(1950年)同様、密室劇のような緻密な作りになっている。
wikiなどを読むと、出演もしているベン・アフレックとマット・デイモンが中心となって作った映画のようだ。

1386年に行われた決闘裁判についての物語だ。
フランスの騎士ジャン・ド・カルージュ(マット・デイモン)は、妻マルグリットを、親友だったジャック・ル・グリ(アダム・ドライバー)に強姦されたと訴える。双方の主張は折り合わず、命がけの決闘裁判で決着をつけることになる。
裁判に至るまでの顛末を、
・ジャン・ド・カルージュ
・ジャック・ル・グリ
・マルグリット
それぞれの視点から真実が語られる。
というもの。

観ていて思ったのは、三者三様の視点というのは、誰かが真実を語っていて、誰かが嘘をついている、というものではないのだろうということ。「人は自分の見たいものしか見ない」とか、「人は自分で作り上げたフィクションの中で生きている」といったことはよく言われる。これについては、カントも「純粋理性批判」において、「人は誰もが同じ世界を見てはいない」といったことを書いている。
つまり、本作でもみんなが真実を語っているのだ。だからといって裁判で「みんなちがって、みんないい」とは判決を出せないわけで、なんらかの形で結論を出さねばならない。それは、真実とはまた違う、とりあえずの結論であって、それが正しいのかどうかはわからない。
こういう感覚をうまく表現している作品だと感じた。
つけくわえるならば、戦闘シーンの迫力はすさまじくて、リドリー・スコットはこういうのを撮らせると本当にうまいな、とあらためて感心した。

それぞれの人物の口から語られる「真実」が「羅生門」よりも現実的だったのも印象に残る。ハリウッドのエンターテイメント映画としては、わかりやすく作る必要があるんだと思う。ただ、わかりやすいとはいえ、「グラディエーター」ほどのわかりやすさはなくて、知的な佳作といったところだ。その結果として、製作費が$100,000,000で、興行収入が$30,552,111ということで、$69,447,889の赤字の模様。
監督も俳優も超一流で、作品のクオリティも高いとはいえ、誰もが喜ぶわかりやすくて楽しい映画、という評価にはなっていないのがわかる。
だからといって、本作が「残念な映画」だという気は毛頭なくて、むしろ観客側にこういう作品も普通に受け入れる土壌があるべきなのだろう。

マーベルやDCのスーパーヒーロー映画人気がひと段落してきたので、ここでいわゆる大人が観ても楽しめる作品が市場に戻ってくることを期待したい。ちょうどスコセッシの「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」が公開されるので、流れとしては悪くないのだが、逆に、ハリウッドの俳優組合のストが続いているので、新作そのものが作られないという状況で、先行きが不透明ではある。

https://www.youtube.com/watch?v=IzeMZpvBkd0&t=293s

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