「ノスタルジア」(1983年)
タルコフスキーの作品をきちんと観たのははじめて。
ロシア人の詩人アンドレイは、自殺したロシアの音楽家サナノフスキーの取材でイタリアを旅していた。
小さな温泉街で、ドメニコという奇妙な男に出会う。
アンドレイは、ドメニコからろうそくを渡される。「ろうそくに火をともし、水の中を渡りきることができたら世界は救われる」。アンドレイはその役割を受け入れる。
タルコフスキーは「世界の救済」をテーマに創作を続けていたとwikiに書いてある。本作においてもそういう話は出てくるが、描かれていたのは、「芸術がいかに理解されないか」ということだと感じた。
冒頭、イタリア語がわからなければイタリア文学は理解できない、というやりとりがある。また、ドメニコの話を聞いたアンドレイが「よくわかるよ」と答えると「よくないんだ!」と切り返される。芸術家が焼身自殺をするシーンでも、まわりの人々はぼんやりとそれを眺めている。
タルコフスキーは命がけで映画を撮っているが、人々はそれを理解しなかったり、理解した気になっているだけだ、という気持ちが反映されているのだと思う。と、これもまた、自分の勝手な推測でしかない。
それはともかく、映像はすばらしい。
特に構図が美しく、絵画的なバランスになっている。
また、カラーとモノクロの画面を使い分けている。
カラーが現在で、モノクロは過去や抽象的な風景を描くときに使っているようだ。
タイトルの「ノスタルジア」は、言葉の意味としては故郷を恋しがることのようだが、本作のモノクロ映像で登場する田舎の風景は、宗教的な意味での故郷、あの世を示しているのではないだろうか。穏やかで満ち足りた世界に人々は戻っていく。
難解で、wikiを読んだうえで自分で推測したが、こういう映画もいい。
1980年代初頭というと世界的に経済が落ち込みはじめた時期のようだが、タルコフスキーが影響を受けているかどうかはわからなかった。
https://www.youtube.com/watch?v=F-XFpH-YhBs&t=1s