「カモンカモン」 (2021年)
ウェルメイドな作品。ホアキン・フェニックスと子役の演技はとても良くて、安心して観ていられる。洗練されたアートシネマが好きな人ならみんな満足すると思う。
主人公のジョニーは、ラジオ局につとめるジャーナリストで、全米を移動しながら子どもたちに取材する仕事だ。彼の妹は結婚しているが、夫がメンタルを病んでいて、入院させるためにごたごたしている。そのため、彼女の息子であるジェシーの面倒を見てほしいと頼まれる。
ジョニーは仕事があるので、結局ジェシーをつれて旅を続けることになる。
ジェシーは賢いのだが、エキセントリックなところがある。親元を離れてすごす不安もあり、ジョニーは手を焼くことになる。しかし、そんな生活の中でも、徐々にふたりは信頼を構築していく。
たくさんの問いがあり、たくさんの答えがある。
ウイリアム・サローヤンの「パパ・ユーアクレイジー」を思い出した。
父と子の物語で、ふたりがたくさんのことについて話す。
こういう、普段あまり親しくないおとなと子どもが、ふたりだけの時間を過ごす中でたくさんの会話をして、互いを理解していく、という物語はたくさんある。ただ、2021年という時代にあらためて、コミュニケーションの大切さを問いかけたのはタイミングがよい。製作と配給はA24。この会社の企画力のうまさにはいつも感心する。
A24の作品は売れるアートシネマだ。
spotifyのヒットチャートに名を連ねているアーティストの楽曲に似た感覚がある。それは洗練されていて、軽やかで、かつ個性もある。ただ、魂を削るような凄みのある作品はチャートには出てこない。たくさんの人に聴いてもらえる曲なのだ。結構どぎつい歌詞の曲もあるのだが、それでもおしゃれになっている。
A24も空気感が似ている。丁寧に作られた作品であるのは否定しないのだけど、やっぱり、マーケティングとかビジネス的な計算といったものが先だっているように思う。「ミッドサマー」も強烈ではあるのだけれど、がっつりと心をつかまれるような凄みはない。
それでも、ホアキン・フェニックスは名優と言ってもよい俳優だし、子役もうまかった。映像もめちゃくちゃきれいで、センスの塊みたいな作品だった。でも感動はしなくて、映画の世界のトレンドをチェックしている感覚なのだ。
時代の空気感というものがあって、クリエイティブをやるのであれば、常にそれを追いかけていかなくてはならない。その空気感に対して、どんな問いを立ててなにを生み出していくのか、という作業が自分のクリエイティブになる。そういう意味ではA24のやっていることは正しいし、spotifyのランキングの上位にいるアーティストも時代の空気をうまくつかんでいるのだ。ただ、マーケティングと計算に基づいたプレゼンテーションみたいな作品は、とてもきれいで、たくさんの人が受け入れるのだろうけれど、やっぱり、リミッターが壊れたような凄みのある作品にはならないと思う。
そういう風に考えると、スコセッシとか、デヴィッド・フィンチャーみたいな人たちはやっぱりすごいんだと思う。
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