ラスベガスをやっつけろ
公開当時に観たが、麻薬のトリップした感じがおもしろいという程度だった。今回あらためて観た感想としては、当時はなにも理解していなくて、本作は戦後アメリカの繁栄は、実際には虚栄であり、ベトナム戦争や政治のおかげでめちゃくちゃになったアメリカで、原作のタイトル通り「恐怖と嫌悪」にまみれている、という強烈なメッセージを持ったものだった。
主人公のラウル・デュークはドラッグをやりまくる。それで救われると思っていたのだろうが、実際にはそれは得られない。この世界に希望などありはしないのだ、という物語。
いわゆるベビーブーマー世代の世界観かもしれないが、ジェネレーションXにあたる小生も納得できた。
デュークは、物語の冒頭でラスベガスのバーにいく。そこで客が恐竜のような爬虫類になっているのを幻覚で見て恐れおののく。ギャグのようにやっていたが、実際にはこのシーンは物語のテーマだったと思う。なぜなら、映画の最後のほうで、デュークが、冒頭の爬虫類と同じような格好をしているシーンがあるからだ。つまり、彼は周囲の人間がフリークだと感じていたのだが、実際には自分も同じフリークだったのだ。
この映画は典型的な「ゆきて帰りし物語」の構造になっていて、外部からラスベガスにやってきたデュークが、成長して町を出ていく。車にアメリカの国旗をかかげて、一本道を突っ走っていく。愛国、ということではないだろう。しょせんは自分もこの狂ったアメリカの一部なのだと受け入れたという意味だと思う。自己成長というよりは、自己理解というべきかもしれない。
原作は1989年。映画化されたのは98年。33年前の本、24年前の映画。それから世界はどうなったかというと、ますます絶望的な状況になった。
しかし、絶望的なだけだろうか。デュークには友人のドクター・ゴンゾーがいた。ゴンゾーはデュークのすべてを理解していて、彼を支えている。世界は絶望的ではあるが、多少の救いはあるのだと思う。それを救いといっていいのかわからないが。