メゾン マルジェラ「シネマ・インフェルノ」
マルタン・マルジェラだったころのデザインは、前衛的ではありながら、どこか垢ぬけない印象だった。良くも悪くも手作り感があった。
創始者が引退して、ジョン・ガリアーノがデザイナーになった。2015年のことだ。そのあと、マルタン・マルジェラが自らを語る映画が公開された。悪くはなかったのだが、映画そのものはマルジェラっぽくなかった。あの、真っ白ではない、ちょっとくすんだ白と特徴的なフォントで構成された、あのブランドのイメージではなかった。
今回のインスタレーションでは、ジョン・ガリアーノが手掛けたデザインを間近で見ることができた。素材の手作り感は残っていた。しかし、マルタン・マルジェラだったころの垢ぬけない印象は消え去っていた。ひとつひとつ職人が手作りした洗練されたハイブランド、といった印象になっていた。すぐれたデザイナーが入ると、こんなにも変わるものなのかと驚いた。
そして、映像が流れていた。
これがすごかった。舞台でモデルたちが演じる姿をカメラがとらえて、頭上のスクリーンにその映像が流れる。
こう考えてみてはどうだろう。舞台は現実で、頭上のスクリーンはその現実を加工した虚構なのだ、
人間は現実に生きているが、それぞれの人が頭の中で自分なりに解釈して、虚構を作り上げる。その流れを、そのまま表現しているのではないかと思った。その考えを延長していくと、頭上のスクリーンに映し出される虚構は人それぞれ違うかもしれないが、ジョン・ガリアーノが作ると、この映像になる。マルジェラを引き継いだガリアーノは、マルタン氏とは違うものを作っているが、自分が作ると、こういうクリエイティブになるのだ、という弁明なのかもしれない。
解釈は人それぞれだが、今まで観たこともない映像作品で、こんなやり方があったのかと、ジョン・ガリアーノというデザイナーの賢さに驚愕した。ひとりで考えたのかどうかわからないが。
下記のリンクの下にその映像が掲載されているので、興味のある方は観てみると良いと思う。
昔からファッションは横目で見ていたのだが、それは独創的なクリエイティブに触れることができるからなのだと気がついた。昔からそう思っていたような気もするし、今日気がついた気もする。どちらでもいいんだけど。
とにかく、生まれ変わったマルジェラのすごさというものを、直に体験できたのはとても幸運だった。ジョン・ガリアーノが就任してずいぶん経つから、遅すぎる気もするけれど。