『うた新聞』2021年8月号
①釈迦に降りし雨はキリストよりおほしぽつんぽつんと頭(かしら)をぬらす 坂井修一 キリスト教は砂漠のイメージ。聖書に雨の場面は少ない。対して釈迦は樹の下で悟りをひらくなど緑の中にいる印象だ。宗教に気候の与える影響は大きい。釈迦に降った雨を主体も感じているのだ。
②「短歌トラベラー」「おいしい」の一言ほりくオレガノを耳かき一杯多くすパスタに 松谷東一郎〈ソレントの断崖から眺めるナポリ湾は恐ろしいくらい美しかった。〉この連載が好きだ。早くコロナが収束して旅行がしたい気分になる。皆さん、色々なところに行っているなあ。
③「玉城徹の歌」みづからの小説により身滅ぶる作家族たらむこと願はずき 玉城徹:笹谷潤子〈玉城にとって、歌を詠むとは世界を自らの手で作り上げるものではない。ただ対象物を見えるままに表現すること。その中にしか彼の表現したい美は存在しない。〉玉城徹の哲学というか、目指すところを解説している。玉城の歌を読む補助線にしたい。歌中の「作家」は三島由紀夫か。玉城と三島の経歴の共通点についても面白く読んだ。
④事も無く空襲警報解除されひぐらしはまた歌ひ出したり 宮原望子〈敵機の空襲警報がこの奥地までも発令されたりしたのだが、蝉達が鳴き続けている限り、何事も無かったからだ。ひぐらしは幸運の蝉だ。〉虫や鳥等の小動物に予知的な力を感じることがある。暗い時代を灯している。
2021.9.20.Twitterより編集再掲