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雨に濡れて湧き立つ土の香り。小さな赤い果実を摘む。どんぐりを踏みしめながらリスの残像を見た。霧が朝を囲む。まばゆいほど輝く緑は風に揺られ、キツネは銀世界に足跡を残していく。 そんな海のない土地で生まれ、山のふもとで育った。 だから、海は特別な場所だった。 夏休みになれば、家族三人で新潟の海水浴場へと赴く。小学生の頃の話。手押しポンプでふくらませる浮き輪は、もう何色だったかも思い出せない。海の家で食べたのはいつも焼きそば。高齢出産のもとで生まれてきた私。両親との体力差など