マガジンのカバー画像

雑多な本棚

18
のぞいてみる?
運営しているクリエイター

2020年2月の記事一覧

点と線

今はもう捨てた黄緑色のカーテンを思い出す。一人暮らしを始めるとき、近所にあるスーパーの二階で、親に買ってもらったものだ。 妙にテロテロとした素材で、中途半端な光沢をたたえた、いかにも安っぽいカーテン。アパートの窓にサイズが合わなくて、母が手縫いで丈を詰めてくれた。 六年前の夏、私はそのカーテンを朝から朝まで閉め切っていた。 追い詰められていたんだと思う。 毎晩Googleの検索窓に「自殺 方法」と打ち込んでいた。「自殺 方法 苦しくない」のときもあった。服毒がいちばん

私はバッカス、ならば月の女神は

アメジストの紫色は、日光によって退色する。 憧れていた。 近い世界でいえば、教室の真ん中でいつもクラスメイトに囲まれていたあの人。毎年、運動会のリレー選手に抜擢されていたあの子。遠い世界でいえば、ステージの上でスポットライトを浴びる大好きなアーティスト。サンパチマイクを前に躍動する大好きな漫才師。 憧れていた。いつもいつも、あらゆる存在に対して。 世界の中心に両足をつけて立ち、周囲を巻き込んでいくような。そういう力が私にはない。いつもいつも、中心から離れた場所から視線