静御前の出産⑦【最終回】
「赤子の命を助けるわけには参りませんか？」
思わず、政子は言ってしまった。
なんと気の毒な……。
せめて赤子を出家させて、生き長らえるよう計らってやれないか。
ちろん
夫は、眇めた眼差しで、否定してきた。
「お前とて、分かっておろう」
情の深い女だ。そこが魅力であるが、こんな時は聊か面倒くさい。
できないのだ。
生きていれば、「義経の遺児」を利用する輩が必ず現れる。そして、敵勢力となる。
その芽は、早いうちに摘んでおく必要があるのだ。
自分が、そうだったのだから。
源義朝の遺児でありながら、命を奪われずに済み、その後に平家を滅ぼしたのだから。
「分かっては、おりますが……」
政子は、目を伏せた。
理屈が頭で理解できるのと、心で納得できるかは、違う。違うのだ。
到底、納得できはしまい。
命を懸けて産んだ、愛した男の忘れ形見。その命を奪われるなど。
静様……。
あなたは、この先、どうなさいますの……？
★ ★ ★ ★
ざあーん……っ
波が、浜辺に寄せては返す。
静は突っ立って、ぼうっと海を眺めていた。
若く健康な舞姫の体は、出産のダメージからあっさりと回復していた。
だが、心は別だ。
赤子は、この海に捨てられたと聞いた。
首を捻られ、息の根を止められてから。
だから、万に一つにも、生きている筈は無いと。
空っぽの腹になった静は、もう用無しだ。
監視を解かれ、京の都に帰されることとなった。
哀れんだ政子が、かなりの財宝を贈ってくれていた。当面の暮らしには困らない。
京で、今一度、白拍子としてやっていくこともできよう。
義経さま……。
彼が討たれたとの報せは、まだ届かない。
彼を追うか。
いや、それはできない。
だって、吉野の山で別れたとき、義経さまは私の手を離したのだから。
静……。
お前は、私と別れても、白拍子として生きていける。
もちろん、しばらくは大変であろう。
だが、私と運命を共にする必要はない。
お前には、まだ違う道が残されているのだ。
「違う道」が無いのは、正妻の郷御前だ。
義経さまと一緒に死ぬのは、あの方。
私は妾だから。
でも、愛してもらえた。
そして愛していた。
しづやしづ しづの苧環 繰り返し
昔を今に なすよしもがな
波も繰り返す。
時は戻らない。
あの日々には、もう戻れない。
ねえ、義経さま。
私は死んだのですよ。
あなたが私を手放したとき。
そして、もう一度、死んだのです。
あなたの赤子を殺されたときに。
「しーずーかー……！」
背後から、遠く、母の呼ぶ声が聞こえてくる。
目の前には、海。
あの子の沈んでいる、海。
〔おわり〕
最期までお読み頂き、ありがとうございました😊
静御前の最期については、はっきりしていません。
鎌倉で解放された後、入水自殺した説。
または、奥州の平泉（岩手県）にいる義経の後を追うが、旅の途中で亡くなってしまった説。（この地で死んだと伝わる場所が、多数あり）
さらには、平泉までたどり着いたものの、義経を守るために、自らの命を犠牲にして殺された説まで。
後世の人々が、静御前の悲恋と一途な生き様に心を打たれたからこそ、様々な伝承を生んだのではないでしょうか。
「静御前の出産」
あなたは、このお話の後、どうなると思いますか？
⬆️「ダンジョンズＡ」を書き終えたのが、昨年２０２４年の５月。
それからブログサイトを公開し、小説投稿サイトにも投稿し始めて、現在に至ります。
でも、ずっと新しいお話を書く気にならずにいました。
正直に言って、疲れてしまったのです。
成果も、ほとんど出せませんでした💧
完結までは、ブログも投稿も両方続けると決めています。
でも、その後どうするかは、思い悩んでいました。
昨年12月からnoteを始めて、「名画の詩集」の詩と、短い考察文などをアップしました。
そして、今回、この「静御前の出産」を書いてみました。
思いのほか多くの方に読んで頂き、スキも頂けて、本当に嬉しかったです😊
同時に、自分の力不足を痛感しました。
そして、私は何を書いたらいいか、改めて考えました。
時間はかかっても、オリジナルの小説を書こう。
短編ではなく、ストーリーのあるものにしよう。
どう頑張っても、書き上げるのに四、五か月はかかりそうな長さの話ですが、トライすることにします。
ここで声に出してしまって、自分を追い込む作戦であります😅
詩の方は、放っておいても自然と出てきちゃうし、色んな絵画を見るのは自分の栄養になるので、週一回の公開を目標に続けていこうと思います。
そんなわけで、今後note公開の頻度は減ってしまいますが、静かに頑張って行きます💪
スキ・コメント頂けると、とても励みになります❤️
フォローしてくれたら、とっても嬉しいです✨
どうぞ今後とも応援よろしくお願いします❣️