第2種/第3種電気主任技術者を認定で取得したときの話 ②実務経歴証明書を書く前に

電気主任技術者免状(以下、免状)を認定取得するときの最初のハードル、それは実務経歴証明書……ではなく、そこに書くべき実務経歴の積み方です。
今回はそんな実務経歴の積み方のはなし。
2023/02/07 文末に事例補足「工業高校電気科から実務経歴だけで第3種認定→第2種認定とステップアップした人」を追記。


実務(経歴)とは

電気主任技術者免状を取得するには実務経歴が必要です。では、その実務って何でしょうか。

簡単にいえば、実務というのは
① 希望する資格ごとに定められた電圧以上
② 電気工作物である各種設備に関する
工事・維持・運用の業務(監督指導を含む)、またはその付帯業務
のことです。この業務を学歴ごとに定められた年数だけ積み重ねていかねばなりません。
認定を受けようと思った時に、最初に気になったのは「電気に関係する業務は色々やったけど、どれが認定してもらえる業務なのか?」でした。

低い電圧は対象になるか?

まず、電灯盤などのブレーカ操作や絶縁抵抗測定は原則、実務にはなりません。
目安は3種の認定なら電圧500V以上、2種なら1万V以上、1種なら5万V以上の電気工作物となります。

2種以上の申請の場合

私が2種を申請したときに担当官に確認したら、
当該電圧では設置されていなかったり、設置個数が少ない機器について、目安より低い電圧で設置されているなら記載してほしい」とのことでした。
たとえば、力率改善用のコンデンサは主変圧器の二次側に設置していて、6600Vの電気工作物にあたっていたけど、これは2種申請時の実務経歴を記載するときにはチェックされました。
これはおそらく2種以上の申請に限定されます。3種の認定の目安は前記の通り500V以上です。電気主任技術者の実務経歴にカウントされる電圧500V未満の機器はあまりありません。
一方、特高需要家であっても認定時にチェック対象となる機器のすべてが1万V以上の受変電設備として設置されているとは限りません。

どんな作業が評価されるのか?

実務の内容について「電気設備のメータを読んで記録していた」とか、「ブレーカ操作をしていた」だけでは足りません。
また、「キュービクルの設置工事の監督をした」とか「高圧受変電設備の年次点検の立ち会いをした」といったトロフィー的なでっかい案件だけでも意味はありません。
なぜでしょうか。
それは電気主任技術者の職務の内容から少しずれているからです。
電気主任技術者は「事業用電気工作物の工事、維持及び運用に関する保安の監督」をする/できる人でなければなりません。
認定/試験合格を問わず免状をもらったその日から保安の監督ができるだけの実力を求められています
一人で任せても保安の監督ができるだけの知識や能力があるね、と審査官が判断できるような実務の内容でなければ、認定してもらえません。
では、どのような実務の内容なら審査官が「一人で任せても保安の監督ができるだけの知識や能力がある」と判断できるのか。
その基準は「知識や能力にもとづいて申請者自身が保安上の判断をしているか」だと考えます。
受電日誌に9時、12時、15時、17時のメータの値を記録するだけでなく、例えば「当日の生産設備の稼動状況と照して、負荷電流の値は異常はないか」とか、「直近に増設した全館空調システムの設備仕様と負荷の変化は想定の範囲か」とか、そういう判断を役割なりに下すような業務が「実務」としてカウントされているようです。
この点、とくに第3種電気主任技術者免状を認定取得する人は注意が必要です。

3種認定上の注意点

なぜ3種認定が大変か、の理由の一つが「保安上の判断をしていない」と思われるからでしょう。
今一度、電気主任技術者免状の認定要件を(3種認定を前提に)見直してみると、
電圧500V以上
② 電気工作物である各種設備に関する
工事・維持・運用の業務(監督指導を含む)、またはその付帯業務
を、学歴ごとに一定年数だけ積みかさねる必要があります。
しかし、一般的にはこのような実務ができるような電気工作物にはすでに有資格者が選任されていたり、外部委託承認を受けていたりします。
そうなると無資格・未経験の方の業務は単なる記録係だったり、ちょっとしたブレーカの操作程度になってしまいがちです。
実務経歴書の内容や面談の内容が単なる記録係、操作ロボットになると審査官も「保安の監督ができるだけの知識や能力がある」と判断できなくなるのです。
2023/02/07 事例に追記しましたが、条件(運?)次第では3種認定でも不利になりにくいパターンがあります。

「付帯業務」って何?

工事・維持・運用の業務の付帯業務という文言も幅があってむずかしい表現ですね。
私の実感としては、ここには次の業務が含まれるものと考えます。私や後輩が実務経歴書に記載したものの内、「不要」と削られなかったものです。
① 工事・維持・運用の作業そのものではなく、事前・事後の社内・社外調整
 たとえば、停電作業になるなら事前に社内の各部署とスケジュールを調整しますよね。
 また、線路停止を含むなら、電力会社さんとのあいだで線路側接地の取り付け・取り外しの調整とか、同一線路で受電している他社さんの調整とかもあるはずです。
 電力会社さんとの間での調整といえば、受電契約の変更・更新とかもあります。こういった社内外との調整も付帯業務に含まれているようです。
② 電気の保安に関する手順の作成や教育の実施
 保安規程にもとづいて電気に関する社内での教育を実施したり、停電時の対応マニュアルを作成したりする場合も付帯業務のようです。
 私の場合は後輩へのOJTや新入社員などへの低圧電気取扱講習の実施などを記載しました。
 また、申請者本人の教育も立派な業務です。私と後輩はメーカが実施した高圧機器の操作・点検セミナーの受講なども記載しましたし、上記の私が実施したOJTについては後輩の実務経歴書でも本人の教育記録として記載しています。
③ 各種官庁申請やその折衝・書類作成
 上記の保安規程の作成だけでなく、見直し・変更やその届出、電気主任技術者選任届の提出などはこの官庁申請としてカウントされています。
 また、各地の産業保安監督部に関係のない届出でも大丈夫でした。例えば、構内で工事業者が設置する事務所用仮設キュービクルの「変電設備設置届」を市の消防本部に届け出ています。これは電気事業法ではなく消防法や市区町村の火災予防条例に根拠のあるものですが、これらの提出についての記載もそのまま通りました。

この記事の評判がよければ、本シリーズの次回記事は「認定に備えた心構え」にしたいとおもいます。

事例: 工業高校電気科から実務経歴だけで第3種認定→第2種認定とステップアップした人

実は私の父親(以下、A)の事例です。だから、大分古い話ではあるのですがこういうパターンもあるよ、ということで。

Aは工業高校卒業後、地元の電気工事会社に就職し、主として制御盤制作を担当していました。当時のことなので、シーケンサではなくリレーばかりです。
その後、自宅近くのスポーツ施設にて電気主任技術者を探しており、「最大電力が500kW未満である」ことを知ったAは、許可選任(電気事業法第43条2項)を受けられることをアピールして採用されました。
許可選任を受けた後、実務を5年経験して第3種電気主任技術者免状を認定取得しました。
その頃、鋼板を塗装する会社が近隣に工場(特別高圧需要家)を新設すると聞き、3種免状と制御関係の経験を売りに転職し、10年程実務を積むことで第2種電気主任技術者免状を認定されました。

このパターンの場合、第3種電気主任技術者の認定取得でも実務経歴上の穴は少ないと考えられます。
なにせ、当該事業所限定ではあるものの電気主任技術者として法律上定められた保安の監督をしているのです。

今では許可選任の審査も厳しいと思われますし、500kW未満の電力の設備だと電気保安法人に契約されるパターンも多いでしょう。
しかし、こういうパターンでのステップアップもあるということで紹介だけしておきます。
もしかすると、電気主任技術者の有資格者が不足しており社内はおろか採用も困難、外部委託しようにも電気管理技術者の点数が一杯でお断りされることがある現状だと、電気系の大学・短大・高校を卒業していたり電気工事士に合格していればワンチャンあるかもしれませんね。


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