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【小説】どん底まで尽くす女が我に返った瞬間
╋ 出会い
ホテルのサロンに勤め始めて1年が過ぎた。
店長も先輩たちも優しく、後輩にも慕われており、仕事の内容も好きだ。最初は自信のなさから「向いてない」と逃げ出しそうにもなったけれど、この職場ならつらい事も乗り越えられると感じていた。
9年付き合ったはじめての彼氏と別れて半年。元カレの今カノに不可解な嫌がらせをされながらも、自分の幸せのために努力している最中だ。
久しぶりに掲げる『彼氏募集中』の気楽さは、寂しさを上回ってワクワクしていた。
「遠くて悪いんだけどさ、合コンに付き合ってくれない?」
小学校からの親友のマイが、珍しく声をかけて来た。
高校卒業以降、多少疎遠になってはいたけれど、近年では実家が近い事もありよく遊んでいるマイ。
当時の彼女の想い人も、少し難ありで…私は事あるごとに相談に乗る形で新密度が高まっていた。
「他の子との合コンで知り合った人と会いたいんだけど、2人じゃ緊張するからさ。友達同士2対2なんだけど…いい?」
私もマイも新しい恋に前向きだったし、お互いが応援したいと思っていたので二つ返事で飲み会が決定した。
それが、人生の中でもトップ5に入るドラマチックな裏切り劇の始まりになろうとは、気付きもしなかった…
╋ 待ち合わせ
飲み会がセッティングされた日、私は運悪く会議が入ってしまった。マイの住む街は、私の自宅から車で一時間ほどかかる場所にあり…時間の都合上、着替えることができずにスーツでの待ち合わせになった。
運転が苦手な私は、この距離を車でなんて到底ムリ。不可能。致し方なく汽車を利用するけれど、田舎のため1時間に一本あるかないかの不便さだった。
せっかくなら、自分らしく会いたかったなぁ…
多少の不満を漏らしつつ、移動の間に身なりを整える。髪を緩く結い直したり、リップを塗ったり、人見知りの私は落ち着かない。
事前の情報によると、マイが狙っているのは同い年のヤッチンという男性らしい。「めっちゃノリが良くて気が合う」らしく、これは援護しなくては!という気持ちがすごい。
同席するのはヤッチンの後輩のユウキ。年下の24歳だそうで、まぁイケメン。調子に乗って距離を詰めてくるタイプで、合コンの時、マイは不覚にもドキッとさせられたらしい。
なるほどなるほど。
私は「次に付き合うなら、可愛がってくれる年上!」と決めていたので、今回はマイを全力で援護するという立ち位置を確認した。
╋ 合流
待ち合わせ場所は駅のロータリー。
強めの秋風が冷たく感じる10月の、北海道の夜。「せっかく髪の毛直したのに…」なんて思いながら目的の車を探した。
車の車種とナンバーを伝えられていたけれど、矯正しても目の悪い私にはなかなか見つけられず。ププッと短いクラクションでなんとか合流することができた。
「お疲れチャン!さむかったしょ」
助手席の窓を開けて、マイが声をかける。
「後ろ、汚いけど乗って!まず飯行こう」
運転席のヤッチンが続けて、後部座席に乗っていたユウキはドアを開けてくれ、どうぞと促した。
「はじめまして、よろしくお願いします」
我ながら、なんと硬い自己紹介だろうか。もう少しくだけた雰囲気を演出できなかったのか…
マイたちは少し前から合流していて、ゲームセンターのUFOキャッチャーで盛り上がっていたらしく、すっかり打ち解けた様子。
しょっぱなで優等生ぶってしまったために、私だけガチガチの敬語が抜けなくなった。
このパターンは、自分らしく振る舞えずに帰るやつだなぁ。
前ではマイとヤッチンが夫婦漫才のようなテンポで会話しているのに。
と、早くも反省をしていた時。
隣から視線を感じて首を向ける。
ユウキと目が合って、よくわからずに微笑んでみた。
あれ、私は何かやらかしただろうか?「先輩達のいい雰囲気に水を注すな」って目で訴えられてる?!
残念ながら鳥目のため、暗い車内ではうまく表情が読み取れず…ますます不安と後悔と反省を抱えながら、車は飲み屋街に止まった。
╋ 一目惚れ
すでにドギマギしている私。本当に人見知りでコミュ症で…上手くやらなくてはと思うほどにテンパってしまう。
ヤッチンとユウキはなじみの場所らしく、車を止めるなりサッサと降りて行く。
少し心配そうにするマイに「大丈夫」と頷いて私も降車しようとすると
「ここ、水たまり」
声をかけながら、車の外ではユウキが、掴まれとばかりに手を差しだしていた。
生まれてこの方、殿方にそんな事された覚えないんですけどー!!
どどどどど、どうするの、コレ。対処の仕方がわからない!
「あ、ありがと…ござい、ます」
とりあえず、動揺を隠しながらそっと手を伸ばす。
グッと握られて、引き寄せられる力に驚いた。
「ドキッとしちゃった?」
「それはない」
ドキッとしましたとも!!!
しかし、なぜか即答で、可愛げが1ミリもない返答をしてしまう。
ニヤッと、意地悪に笑いながらのそのセリフは、私的にはストライクど真ん中なのに!恋愛ゲームのキャラクターでいうと、真っ先に攻略対象に選んでしまう部類のやりとりなのに!!
逆に、「よくその回答出来たな、私」と、思うほどにドライを装った。
そうなのだ。私には悪い癖がある。
せっかく可愛い女性を演出するチャンスがきても「そのチャンスに乗ったら負け」だと思ってしまうのだ。
本当は可愛く見られたいのに。意識しすぎて、「普通」を装ったつもりが「やりすぎ」てしまう。
だから年上とお付き合いしたい。
そんな私のアマノジャクをお見通しで転がしてくれるような大人の男性がいい。
しっかりと分析済みのクセがあっさりと出てしまい、精神的にノックアウト状態でけれど。
他の誰がわかる訳も無く、ヤッチン達の行きつけの居酒屋に入った。
╋ 警戒
こじんまりとした感じの居酒屋はまだ時間が早いこともあり、他に一組入っているだけだった。奥まった席に通されて、半個室のような席は居心地がいい。
席に着き、アルコールが苦手なマイ以外がビールを注文する。
「お、いいねー!飲むべ飲むべ♪」
明るい場所で改めてみるヤッチンは、YouTuberの水溜りボンドのトミー(近い芸能人がわからなかった…!)に似た雰囲気。ガッチリとした体格で、人が良さそう。
飲むことが好きなのか、私がビールをチョイスしたことを喜んでいる様子。
一方、ユウキの方は、席に着いてからソワソワと落ち着きがない。高橋一生を幼くしたカンジの好青年。
ヤッチンとユウキは同じ会社で働く先輩後輩。体育会系の関係性が根付いているのか、届いたドリンクを配ったりするユウキの反応速度がすごかった。
乾杯と自己紹介を済ませ、料理が運ばれてきても、サッと取り分ける体勢に入ってくれるユウキ。
「ハル、好き嫌いある?何が好き?いっぱい食べな」
「ハル、これは?取ってあげようか」
先輩に取ってあげる為だと思っていたのだけど、やたらと私に気を使ってくれる。まだ馴染んでないからかな、優しいなぁ。
「ねー!マイはこれ食べたい!」
「うっせぇ、ばーか。自分で取れ!」
そして、対照的にマイにはめっちゃ冷たい。
ヤッチンの株を上げるために、わざと優しくしないのかなぁ…。
「ハル、彼氏いるの?年下は好き?」
…ん?
「ハルって意地悪されるの好きでしょ、俺そーゆーのわかるんだよね」
必要以上に絡まれてないか…?
最初はマイとヤッチンをとりもつために、あえて私に話を振ってるんだと思っていたけど…
「俺、ハルみたいな子好きなんだよね~!」
話の方向がおかしくないですか。
いや、私は確かに「彼氏募集中」だけど!!前の彼氏がタメで大きな弟みたいで、疲れちゃったから大人の男性とお付き合いしたくて!!
正直、顔はタイプなんだけど、年下は眼中にありません…っ!
「とか言って、誰にでも言うんでしょ?ユウキくんチャラそうだもん」
余裕なフリをして、精一杯流そうと頑張る私。
「そんなことないって!ハルが相手なら、俺、一途に愛するタイプだから!」
こんな風に、ストレートに「好みです」みたいな会話したことないわ!!
内心では照れまくり、しっちゃかめっちゃかになりつつも。
なぜかクールを装って「はいはい」と流す私。
マイ達もすっかりユウキの押せ押せペースに乗っかって、めっちゃ苦手な空気になっている。
「まぁまぁ、とりあえずLINE交換するべ!また遊ぼうや」
ヤッチンのまとめの一声で、とりあえず連絡先を交換した。
そこからは、少しだけゲームセンターを覗いて、駅まで送ってもらい一時間かけての家路。
ほろ酔いで汽車に揺られながら、さっそくユウキからのLINEが送られて来た。
「まじで、ハル気に入った。もう会いたい」
「明日、会いに行ってもいい?」
おいおい、勘弁しておくれ…!
ドキドキしちゃうじゃないか…っ!
「明日、仕事だから無理だよ」
いつもより早い心臓を押さえながら、お断りのメッセージを送る。
大きく深呼吸して、必死に自分を落ち着けた。
ダメだよ。チャラい年下にからかわれてるだけなんだから。その手には乗ってやらないぞ!!
軽い女じゃないんだから。と、元カレに尽くして浮気された過去を思い出して自分を律した。前回の失敗は、「ちょっと優しくされただけで、めっちゃ好かれていると勘違いした挙句、彼ナシじゃダメだと思い込んでしまったこと」だ。
そんなに簡単に溺れてはイケナイ。
相手に好かれて、尽くされてこそいい女だ!
そもそも私が、こんなに好かれる訳がない。何かの間違い。罰ゲームの可能性もある。若い子を信じてはいけない!!
流れる真っ黒な影を見つめながら、たくさんの理由をつけて心が動かないように警戒する。繰り返し、繰り返し、「自分が愛されるわけがない」と言い聞かせて過ごす車内。
もう間もなく、最寄駅に着く。
峠を抜けて圏外から電波が戻る瞬間。
携帯が着信を伝えた。
「ごめん、汽車の中」
慌てて着信をキャンセルし、メッセージを送る。
「少しでいいから、声が聞きたい」
積極的過ぎるメッセ―ジに眩暈を覚えながら、最寄駅に降り立った。
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ユウキからの着信!!
どうする?出ちゃう??
みんなでワイワイした後に、2人きりで会話するのってちょっとドキドキするよね( *´艸`)
いかがでしたでしょうか!楽しんでいただけてますか💕
この作品はメルマガで連載しているのですが
アンケートの結果「noteなら読みたい」という声をいただいたので
こちらでも連載を開始しました✨
ただ、ちょっとコピーが大変(´;ω;`)ウッ…
余裕がないと作業できないのでかなり更新は遅くなりそう~!!
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だいぶ先の展開まで更新されております😋
メルマガだけの【後日談】だとか『学んだこと』とか
今だから気づいた「こうしていたらもっと愛される」とかもお伝えしていきたいな💕
だってやっぱり、大好きな人とはいつも笑顔で、油断しまくって安心しまくって居たいもんね💘
物語の主人公が、どうして裏切り劇に遭ってしまったのか、他人事だと思って観察してみて欲しい💡
続きも更新しましたー🤗