ドーナツ選抜の番狂わせ
ミスドにおける自分ルールがある。
それが「ドーナツの購入は3つまで」。
理由は至極簡単。どのドーナツも魅力的で、つい買いすぎてしまうからだ。
ショーケースに並ぶ個性豊かなドーナツ達。毎回、端から端まで見渡して心を満たしてから“ドーナツ選抜”を始める。オールドファッションとポン・デ・リングは不動のスタメン。あとはその日の気分に合わせたドーナツで構成されるのがお決まりだった。
彼に出会うまでは。
「ミスドだったらゴールデンチョコレートが一番好き」
「……ゴールデンチョコレート?」
それまでスタメンに選ばれたことのないドーナツ名を彼は挙げた。
「え! 食べたことないの? あれはめちゃめちゃうまい。チョコレートが濃厚で食べごたえ抜群だし、周りについてる黄色いカリカリの食感も最高。今度買ってみ? 絶対はまるから」
数日後、ミスドを訪れた私はショーケースを見渡し、ゴールデンチョコレートを発見した。
「いらっしゃいませ。店内でお召し上がりですか?」
「持って帰ります。えーっと、オールドファッション1つとポン・デ・リング1つ。あと……ゴールデンチョコレートを1つ」
帰宅して袋を開封し、初めてゴールデンチョコレートにかぶりついた。
口の中に広がる甘くて柔らかいチョコレートドーナツ。カリカリもいい塩梅で効いている。
「食べたよ! ゴールデンチョコレート」
「おぉ! うまかった?」
再び目を輝かせて私を見つめる彼。
「うん」
まんまとはまってしまった。ゴールデンチョコレートに。
そしてきっと、彼にも。
あの日から“ドーナツ選抜”は毎回激戦を繰り広げている。もちろんゴールデンチョコレートのせいだ。
ゴールデンチョコレートを買った日の帰り道、彼に遭遇するわけではない。だけどちょっぴり、心が温まる。気分が上がる。それはきっと、まあるいドーナツが私と彼を繋いでくれる気がするから。
だから私は、ミスドに行くのをやめられない。