ステージ・フライトを克服するために
日本の大学のピアノ科では教わった記憶がないのですが、ハワイ大学院のピアノ科の授業の中に、どうやってステージ・フライトを乗り越えるかというのがありました。
ステージ・フライトとは、文字通り訳せば「舞台恐怖症」、つまり本番であがってしまうことなのですが、それは、まず誰にでも起こるごく自然なことだという説明から始まりました。
例えば、家で一人で練習していたらとてもうまく弾けたので、「おかあさん、聴いて聴いて!」とおかあさんを呼んで来たら、後ろに立たれただけでじゃっかん緊張し、家でたった一人の聴衆(しかもおかあさん)しかいなくても、さっきほどうまく弾けなかった。
それも一種のステージ・フライトだということです。
私は10年ほど、毎月生徒たちと病院での慰問コンサートを続けているのですが、よく子供たちから「手が震えた」「足が震えた」「手が汗ですべった」「ドキドキして間違えちゃった」という言葉を聞きます。
友人のピアノの発表会では、極度の緊張に耐えられなかったのか、弾き始める前にピアノの上に吐いてしまった子供がいて、発表会が中止になったという話すらあります。
そんなステージ・フライトに打ち勝つ秘訣とは・・
結局は「十分に練習をして自信をつける」という、ごく当たり前な答えしかないということでした。
演奏会に向けた楽曲の準備の仕方は、具体的にいろいろとあるのですが、専門的な話になるので、そこは省くとして・・
「とにかく練習しかない。 もう間違えたくても、どうやって間違えたらいいかわからない、指が勝手にそこへいっちゃうし、というところまで練習しろ」というのが、当時の私の先生の言葉でした。
ゆっくりでも弾ける、速くも弾ける、どこからでも弾ける、椅子が高くても低くても弾ける、明る過ぎても暗過ぎても弾ける、寒くても暑くても弾ける、もう大丈夫だ! 何があっても私は弾ける!
と思えれば、あがらないというのです。
たしかに、練習が不十分であればあるほど、緊張の度合いも高まります。
そして十分に練習したなら、あとは集中力だと思います。
手が多少震えたとしても、聴衆の中に咳をし続ける人がいたとしても、ドレスが多少キツかったとしても、自分の音楽だけに集中すること・・
それが何よりも大事ですよね。
そして、私の経験からいえば、「楽しい! この大好きな曲を演奏できて! みんなも真剣に聴いてくれて!」と思えたら、もうこっちのものです(笑)
音楽は楽しむべきものとはいえ、演奏に関してそれは時には過酷な練習があってこそ成り立つものというのも、ピアノにおいては(他の楽器はよくわからないけれど、きっと同じですよね)事実だと思うのですが、でもそこを乗り越えたら、自分が好きなように曲を奏でることができる喜びが待っています。
ステージはその最高の喜びの瞬間を味わえる場所だと思えば、恐怖心も薄れていくのでは・・
あと補足するなら、もちろん場数を踏むことも大事ですよね。
そういう意味では、私のスタジオの生徒は、毎月の慰問コンサートのおかげで、かなり舞台慣れしてきているとは思います。
これが1年に1回の発表会だったら、緊張度はまったく違いますよね。
そんなことを考えていた数日前、たまたま稲垣吾郎さんのブログを目にしました。
生まれ変わったらピアニストになりたい、聴くだけでも夢の世界に連れていってくれるのに、みんなに自分が創り出す音楽を聴いてもらえたら、どんなにすばらしいだろう・・というようなことが書かれていて、なんだか嬉しく感じました。
頭ではわかっていても、今週末の初めての場所、初めてのピアノでのコンサートでは、私もきっと緊張してしまうでしょうけれど、吾郎さんの言葉を思い出し、楽しみながら演奏したい!と思っています。
✨今日の英会話✨
Why am I doing this? なんでこんなことやってるんだろう?
これはピアノ科の実技試験の前、ステージの袖で待っている学生たちが、必ずといっていいほど口にしていた言葉です。
さすがに試験の前は、どんなに練習してもものすごく緊張して、「もう専攻変えたい」と本気で考えたりもしましたが。
その時の同級生たちは、今では全員ピアノ講師になっています。