自分の本質を見つめて出来上がったお弁当!那覇市壺屋「ふくみつ」の愛ある店主が織りなす料理
「料理が好きだから」「料理が得意だったから」料理をつくることを仕事にしている。料理屋の店主はこれまでの人生もおそらく、料理一筋に違いないと思っていた。そんな私の固定観念をいい意味で覆してくれたのが、那覇で営む「ふくみつ」店主の山下さんだ。
沖縄県産の野菜を中心に、素材の味を生かした味付けが特徴で、イートイン時代から「ふくみつ」の料理に魅了されて利用する客も多い。イベントでもすぐに完売する人気のあるお弁当の秘密は何か。店主山下さんの料理に対する想いにスポットを当てて「ふくみつ」誕生と現在までのストーリーを取材した。
”推し活”から繋がった料理の仕事へ
山下さんは高校卒業後、照明会社の就職実績がある専門学校に進んだそうだ。
「子供の頃から料理をつくるのが好きで、母からは料理を仕事にしなさいと言われていて、自分の中でもそれは選択肢にあったんですけど、好きだったアーティストのコンサートスタッフになりたい。旅がしたいという思いがありました」
山下さんの口から出た希望職種がまさかの推し活からの照明会社。そんな理由を聞いて何だかほっこり。学生時代は、好きなアーティストのコンサートへ行くためにアルバイト代をライブにつぎ込み、学校をサボってはコンサートに行きまくっていたらしい。
「こんなの仕事にしたら超幸せじゃん。そう思って、大好きなアーティストのコンサートスタッフになりたくて、コンサート専属の照明会社に人材を輩出していた専門学校に入学しました」
しかし、専門学校の卒業を間近に控えて、その照明会社がなくなり、方向転換をせざるを得ない状況になった。人生が大きく動くときは、多くの困難が起こったりするものだが、山下さんもそんな流れの中にいたのかもしれない。
「専門学校を卒業してから派遣で事務の仕事をしたり、ホテルで照明の仕事や結婚式のピンスポットを担当したり。そのうち営業に出させられて。当時はウェディングプランナーとかも流行ってたから、やってみたいなと。笑」
学んできた照明の知識を生かして進んだ先に、ウェンディングプランナーという目標ができた。山下さんからさまざまな職種の話が出てくる。しかし、気持ちの赴くままに進んでいくと、料理の道へと自然に向かっていたという。
「いろいろつながってはいるんです(笑)。専門学校時代にライブハウスでアルバイトをしていて、アーティストへマフィンの差し入れがあったんです。それがおいしくて。調べたら、そのマフィンの会社がウエディング部門も持っていて。まずはレストラン部門で修行してこいと言われてサービスの仕事から始めました」
紆余曲折ありながら、自分の思いを大事に、自分の周りで起きる出来事に抗うことなく自然な流れで今の選択をしてきたのが伝わってくる。沖縄への移住を決めて、那覇でお店を開いてから6年が経つ。若い頃から自分のお店を出したい、自分を試したいと思ってきた山下さんの新天地は那覇市壺屋で始まったというわけだ。
イートインからお弁当へ移行したきっかけ
現在はお弁当販売をしている「ふくみつ」だが、オープン当初は壺屋のお店でイートインが主だった。試行錯誤しながら営業を続けた結果、自分にあった営業形態は何か?という答えが、お弁当の販売にたどり着いたと山下さんは語る。
「独立するときは、店という形にこだわりはなくて、家政婦の”志麻さん”みたいな働き方もいいなと思ったんですよね」
また山下さんから面白い話が出てきた。”志麻さん”とは、ミシュランの三つ星レストランで本場フランス料理を学んで、日本で料理のキャリアを積み、フリーランスの家政婦に転身した「予約が取れない伝説の家政婦」のことだ。
”志麻さん”はストイックにフランス料理を追求した先に、自分が追い求めているフランス料理はきらびやかなレストランの料理ではなく、家族でほのぼのと囲むフランスの家庭料理だということに気づいて、家政婦という生き方を選択した。
山下さんの話を聞いていると、「本来はこうあるべき」「料理とはこうだ」「お店とはこういうものだ」という固定観念に縛られず、追い求めている形や違和感を大事にしている点が”志麻さん”と似ている。こだわりとは違う、自分の気持ちを忠実に体現したいという思いを感じるのだ。
「お弁当に切り替えた後に、もう一回ランチをやってみていろんなことを経て、最近になってやっと、自分にあった働き方を手に入れられました」
自然な流れが産んだ「ふくみつ」の美味しさ
お弁当の食材にこだわり、県内産の農作物や農薬不使用・無添加などを大事にするお店もある。山下さんの作り出すお弁当は、揚げ物が重くない。程よい塩気と甘さの味付けだ。
果たして、食材選びはどのようにしているのだろうか。
「オープン当初は、沖縄県産のものでと思っていたのですが、母が数年前から畑を始めて。それから野菜が届くようになって。ただ、お店をしていると、お客様からの依頼で彩りをよくしてほしい、というオーダーがくることもあります。そんな時は、県内産と母の野菜だけでは賄いきれないんですよね。
今は、お弁当を開けた瞬間の嬉しさを大事にしていて。かといって、その時に集まった食材では彩りに欠けたり、渋い色味になる日もあります。でも、それもまたよし!渡す相手によって食材や味付けを考えたり、仕入れやご縁があった食材でお弁当が出来上がっています」
その結果、県外のものを使用することもあり、相手のオーダーに見合うものを、その時のタイミングやご縁をフルに活用して、お弁当という作品を作っている。その時期にある野菜、季節や温度、お客様のオーダーに合わせて考えていく。相手への思いやりも含めて、それが「ふくみつ」の魅力なのだ。
イベント出店で出会える「ふくみつ」のお弁当
現在、ハッピーモア市場やマルシェ系のイベントで「ふくみつ」のお弁当を手にすることができる。しかし、それ以外で「ふくみつ」のお弁当を手に入れることができるのか、山下さんに聞いてみた。
「イベント出店以外でも、状況によってはお弁当の依頼を1個から受けられる時もあります。食べたいな、と思っていただいた際に、インスタのDMで直接ご連絡ください」
イベント出店が重なったり、オーダーの状況によってはお断りすることもあるそうだが、逆にいえば、その時の状況によって予約を受けることもできるらしい。
山下さんのお弁当は食材や味付けはもちろん、そこに思いが加わって出来上がっている。蓋を開けた時に喜んでほしい、感動してほしいという願いが込められている。季節や食材の入手状況によって、毎回、同じお弁当はない。
イベントでも完売する人気の秘密は、そんなこだわりの味に胃袋を掴まれたリピーターの存在かもしれない。「ふくみつ」のお弁当が気になる、食べたいと思った方は、その時に出会える、その日だけの料理を手に取り、じっくり味わって楽しんでほしい。