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[読切] 水水水水氷水水水水 [改訂版] | 六、扉の向こう (6/7) - 俳句から小説
六、扉の向こう
その場にいる全員が好奇心に駆り立てられて、ゆっくりと部屋の中へと進んだ。
そこは、正面に向かって9個の椅子が横一列に並んだ殺風景な部屋だった。
椅子以外には何もない。
椅子には「水」と「氷」の文字がつけられていて、どこに誰が座るのかは一目瞭然だった。
「座ります?」
水木先生が最初に口を開いた。
リコは迷わず真ん中の席に座った。
「大丈夫、何ともないよ」
後先考えずにまず行動してしまうリコの性質に全員が呆れながらも、ここまで来たら座るしかないと思い、ひとりひとり、自分の席へとついた。
全員が座ると、正面の壁に巨大な文字らしきものが映し出された。
古文解析アプリをかざすとこのように書かれているのがわかった。
《氷水株式会社》
≪これより、第63回運用方針見直し会議を開始します≫
どこからともなく、先ほど壁の前で聞こえていた声が言った。
≪私は “ヒョースイ” この船の全てを司るマザーコンピュータです。ようこそ運用方針見直し会議へ。まずは質問を受け付けます≫
これには全員が面食らって黙ってしまった。
「運用方針見直し会議って何ですか?」
しばらく経って、ジュンが恐る恐る聞いた。
≪運用方針見直し会議とは、千年周期で、創設者の遺伝子を受け継ぐ者を招集して行われる会議のことです。この情報は失われていますか?≫
「完全に何もかも失われています」
速水が答えた。
≪それでは忘却パターンに移行し、会議を進行いたします。これからこのシステムの概要をご説明します。ご質問はその都度受け付けます。進行してよろしいでしょうか? 《氷》の家系の方の声紋により認証します≫
リコは自分のことを言われたと理解し、速水を見た。速水は頷いた。
続いて区長を見た。区長も頷いていた。
「いいよ、進めて」
リコが言うと “ヒョースイ” と名乗った機械の声は驚くべきことを9人に告げた。
ここ、ヒューズイコロニオは、運用初期から全ての施設管理をこのマザーコンピューター “ヒョースイ” が行って来た、と声は言った。
ちなみに、“ヒョースイコロニオ” が元々の発音らしい。
“ヒョースイ” は永久的に動作するよう設計されたスーパーコンピューターだ。
ただし、“ヒョースイ” にもどうしても人間なしでは判断できかねることがあり、それを確認するために千年に一度、創設者の子孫を集めて今後の方針を決めてもらう会議を開くことになっているのだと言う。
それもこれも、全てはリコたちのご先祖さま、神9が構築したシステムの一部とのことだった。
何故千年というスパンの長い周期にしたかというと、この驚愕のシステムを人の記憶にとどめないようにするためらしい。
千年という期間は、人が正確な情報を伝達できなくなるほどよい長さなのだそうだ。
なぜ記憶させたくないのか、創設者の意向らしいが、その意図は測りかねた。
「ちょっと待って…さっき第63回って言ってたよね?」
ジュンが言った。リコを除く全員がこの事態に気が付いてた。
「え? どういうこと」
「お前なぁ…わからないの?」
清水がタブレットの電卓に計算を表示してリコに見せた。
63×1000=63000
「千年周期のものが63回行われてるって言ってるんだよ、ヒョースイさんが」
リコはようやく事の重大さに気が付いた。
「つまり、6万3千年続いてるってこと?」
「そういうこと。でしょ?」
≪そうです≫
「いや、それは違う。ヒューズイコロニオは運用開始してからせいぜい千年ちょっとのはずだ」
区長が驚いて言った。
≪その情報は正しくありません≫
「我々のご先祖さまの計算は正確ってことだよ。人間の情報伝達はせいぜい千年ってとこなんだな」
「そんな情報伝達できないスパンでどうやって毎回会議ができているの?」
リコが訪ねた。
≪会議の招集プロセスは遺伝子に組み込まれています。あなた方の一族は、千年周期で組み込まれた遺伝子が活性化するよう創設者により設計されています。
その遺伝子を持つ者は現時点で36534名存在します。その中からより直系に近く、現実を受け止めるだけの精神力と知能を持ち合わせた9つの個体が選別され、その遺伝子が活性化し、プログラムに従いここへ終結しました≫
これには全員が押し黙ってしまった。これをどう受け止めていいのか解らなかったが、全員が思い当たる節があったのだ。
確かに、彼らは導かれるようにしてここへ来た。特にリコの強い意思によって。
「会議が開かれる仕組みはわかった。じゃあ、これは何の会議なの?」
≪それでは、この会議の本当の趣旨をご説明します。これまでの質疑応答の結果、あなた方には全てを伝えてもその現実に耐えうるとの判断が下されました。念のために確認します。これから私は、あなた方の人生観…世界観、全てを覆すことを述べます。それを発表してもよろしいでしょうか? 《氷》の家系の方の声紋により認証します≫
また私だ…。リコは焦った。自分にこんな重要なことを決める権限が与えられているとはかなりのプレッシャーだ。
リコは全員の顔を覗った。
左側を見ると、水木、水科、ジュン、区長、全員が頷いていた。
右側、垂水、清水、速水、白水の全員も頷いた。
まあ、そうだろう。ここまで来て、聞きたくない帰る…と言えるような人間はここにはいない。
遺伝子に組み込まれているんだから。
「いいよ、続けて」
リコは言った。
≪了解しました。ではこちらをご覧ください≫
(つづく)
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