[ショートショート] 夏の残り火:0.001%
操縦席の前方に座っているスバルの首筋に汗が光っているのをさっきからずっと見ている。
彼は生存を諦めていない。
だが俺たちはここで死ぬのだ。
開拓用装甲車のキャタピラがガヌルの死骸をいくつも踏みつぶして嫌な音を立てている。
殺しても殺しても奴らは不気味な歯をガチガチいわせて襲ってくる。
異常事態である。
…スバルよ…、俺はもう覚悟はできているぞ。
この灼熱ガヌル地獄が俺たちの終着点だ…。
うじうじ俺がそう思っていると、スバルのバカみたいな明るい声が響いた。
「あった、セーフィあったぞ!」
確かにそこにはセーフィの入口があった。
闇雲に走っているようでここを目指していたのか。
幸い装甲車から降りずに直接中に入れるタイプのセーフィだった。
…それも確認済か。
セーフィの中に入ってしまうと嘘のように静かになった。
俺たちは一時的だが安全を確保した。
ベッドに潜り込むと俺は隣のベッドで横になったスバルの方を見た。
スバルは呑気にあくびをしている。
…こいつはたぶん、普通に明日があると思っている。
俺はそんなスバルが羨ましく妬ましく、そして愛おしかった。
気が付かないフリはもうできない。胸の奥でくすぶるこの感情。
「なあ、スバル」
たまらず俺は言った。心臓が口から飛び出しそうだった。
スバルが体を横たえたまま無言で顔だけこちらを向けた。そのなんと美しい姿だろうか。ずるい。
「…抱いて欲しいんだ」
スバルは驚いた表情でゆっくり体を起こした。
俺は終わったと思った。終わってしまった。
「どうした? 急に」
あっけらかんとスバルが言った。
「…どうせ死ぬならお前に抱かれたい」
俺はもうスバルの顔は見れなかった。怖くて見れなかった。
「わかった」
スバルがそっと言うのが聞こえた。ギシっとベッドがきしんだ。
次の瞬間には俺は彼の腕の中にいた。
外ではガヌルの大群が何千体も集まって俺たちを取り囲んでいた。
(つづく?)
藤家 秋さんの短歌「残り火」から着想を得た物語です。
秋さんの短歌から思い出した英語の俳句があります。
冬の俳句なんですけど。
これはですね、スティーヴン・キング著『IT』の中で登場人物の少年ベンが恋焦がれた女の子ベヴに送った俳句なんです。
映画見た人もいると思いますが、あの恐ろしいピエロが出てくる超絶ホラーは、ベンの初恋の物語でもあるんですよ。
あ、関係ない話です。すみません。
800字以内というレギュレーションに思わず反応して、逆噴射プラクティスにしてしまいました。
それでこんな内容に…
なにそれって人は「逆噴射小説大賞」で調べてみてください。
ちなみにつづきません。。。
秋さん。
変化球ですみません。よろしくお願いします☆