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[読切] 水水水水氷水水水水 [改訂版] | 七、人類の選択 (最終話) - 俳句から小説
七、人類の選択
≪了解しました。ではこちらをご覧ください≫
ヒョースイが言うと同時に正面の壁がせり上がり、向こう側に大きなガラス窓が出現した。
ガラス窓の向こうは暗かったので部屋の様子が反射し、窓にはリコたちが映っていた。
部屋の照明が徐々に暗くなり、リコたちは信じがたいものを窓の外に見る事となった。
窓の外には、無数の小さな光が楕円形に集まった何とも形容しがたいものが見えていた。
リコはそれを写真で見たことがあった。
それは、きっと、おそらく、銀河というものだった。
地上に人類が暮らしていたころに夜空に見ていたものだ。
だがしかし、こんなに大きく見えるものなのだろうか???
資料によると、巨大な装置を使ってとてつもなく拡大しないと見えない…というようなことが書かれていたはずだ。
「これは?」
その場の全員が固唾をのんでこの光景に魅入っていた。
≪これは天の川銀河です。かつて地球が所属していた銀河系です。この光景は、実際にこの窓の外に見えてる光景です≫
ヒョースイはここで一旦間を置いた。全員がその言葉の意味を噛みしめる時間を作ったのだろう。
≪端的に言いますと、あなた方が地下都市だと思っているここ、ヒョースイコロニオは、実際は宇宙空間を走行するスペースコロニーなのです≫
ヒョースイが言っている意味がリコにわからなかった。いや、言葉の意味はわかるのだが、それと現実とをつなぎ合わせて考えることができなかった。
「え? どういうこと?」
≪今から約6万5千年前のことです。当時、人類はまだ太陽系第三惑星・地球に暮らしていました。しかし、地球は太陽の老朽化と共に生物の住めない惑星となる運命を辿っていました。
そこで人類が選択した道は、宇宙空間にコロニーを建設し、そこに移住するということでした。
当時、地球環境に依存する形で生存していた人口は約30億人。最先端の技術を持ってしても、その全員をコロニーに移住させることは叶いませんでした。
人類は世界中で二十のスペースコロニーを建造し、そこへ収容できるだけの人間と生き物を移住させました。
このヒョースイコロニオもその一つです。
やがて太陽の終焉と共に太陽系が失われると、各コロニーは宇宙空間を漂う度へと出発しました。
漂流を初めて数百年はお互いに通信ができていましたが、電波の限界を超え、それも途絶えました。
このヒョースイコロニオは創設者の設計に伴い、現在は天の川銀河の外縁を周回をする大きな軌道を走行中です≫
これには誰も何も答えることができなかった。
ヒョースイに告げられたことがあまりに想像の上を行き過ぎていて頭の整理がまるで追いつかなかった。
だけれども、心のどこかで、リコはやっぱりそうだったのか…と納得してる自分を発見していた。
あれほど外に出たかったのに、ずっと外にいたのだ。なんだかおかしな気分だった。
「ヒューズイコロニオは増築してますよね。階層によって築年数が違っているのは明らかだし。ここ数百年、階層は増えていないようですが、新しい柔道場はできたりしています。どこから建材など持ってきているのかなって不思議に思ってたんですが…」
水科が彼らしい視点で質問をした。
確かに、ここが宇宙のただ中だとしたら、どうやって増築しているのだろうか。
≪宇宙空間には建材となりうる物質が多く漂っています。それらはこうした恒星間にもあります。このコロニーにはそうした物質を改修し保管する機能があります。そして、人口増加や施設の需要によって必要な増築を行うよう設計されています≫
「それ全部、神9が作ったわけ? マジで神だな…」
ジュンがボソリと言った。
「それで、これは運用方針見直し会議だと言ったね。我々は何の運用をどのように見直せばいいのかな?」
区長が質問した。
≪ヒョースイコロニオのシステムは永久的に継続できるように設計されています。この中にいれば、人類および地球にかつて暮らしていたいくつかの種族は永久的に存続するでしょう。ただ、その状態を良しとするか否かは私には判断ができません。それを現状を踏まえてあなた方に判断していただきたいのです≫
「え? つまり、これを続けるかやめるかってこと?」
≪そうです≫
「やめるとどうなるの?」
≪適当な恒星に突入するプログラムが起動します≫
「いやいやいや…ダメでしょうそれ」
清水が慌てて言った。
「それ、本当に創設者が設計した選択肢?」
垂水が少し怒ったような口調で聞いた。
≪はい。創設者であっても何万年も先の人類の状況を正確に想定することはできません。平和であれば現状維持を選択するだろうし、そうでない場合は終わらせる権限も与えてあげよう…とのことです≫
フンと垂水は鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまった。
「どこか我々が生息できる惑星を探して移住するという選択はないのかな?」
区長が聞いた。
≪人類は社会活動をすると、どうして環境を汚染します。創設者たちは環境汚染は最大の悪と考えていました。よって、ヒョースイコロニオが他の天体へ着陸することは、如何なる理由があっても許可されません≫
「なるほど厳しいな…」
「こうせいに突入ってのはナシだよね? えと、こうせいって何?」
リコが言った。
≪恒星とは自ら光を発している高温の天体です≫
「つまり、そこに突入したらみんな燃えちゃうってこと? ああ、ダメダメそれダメ」
「だから、ダメだって俺がさっき言っただろう?」
リコは自分がこの会話にだいぶついていけていないことを自覚していた。
でもここで、続行しないを選択したら人類およびその他ここに生きている生命全てが滅亡するということは理解できた。
そんな選択はあり得ない。
「続行で、現状を続行でお願いします」
リコが先走って結論を出してしまった。
≪《氷》の家系の方の声紋により続行の意思が伝えられました。よろしいですか?≫
リコは自分が権限を持っていたことを思い出し、軽々しく結論を述べてしまったことを反省した。
「ご、ごめんなさい。みなさんの意見を聞かせてください」
改めて、全員が満場一致で「存続」を希望することが確認された。
そっぽを向いていた垂水も、「誰が好んで死ぬものですか」と怒って言った。
「はい、オーケーです。続行でオーケーです」
リコはヒョースイに改めて告げた。
≪《氷》の家系の方の声紋により続行の意思が確認されました。現状を続けるプログラムを続行します≫
「さて、これで会議は終わりかな?」
区長が言った。
≪はい。終わりです。なお、この事実は住民には隠されることが創設者によって推奨されています。シミュレーションによると、人口の約67%がこの現状に耐えられず精神を破壊されると予測されています≫
「それは困る。みなさん、どうかこのことは口外しないように約束してほしい」
区長の意見に全員が賛成した。
人工の67%が精神を破壊される…
リコにもその状況が容易に想像できた。例えば自分の両親や、同級生、同僚たちにこのことを告げたらどうなるだろう。
あっとゆうまにパニクってご飯も食べられなくなるはずだ。
≪ここは間もなく閉鎖されます。速やかにご退場願います≫
「あ、ねえ、またここに来ちゃダメ?」
リコが慌てて聞いた。
≪この場が次回解放されるのは千年後です≫
がっかりだった。
もうこの景色は見れないのか…。
リコは窓の外のとうてい現実とは思えない光景を目に焼き付けた。
こんな景色を自分たちだけが知っているのは勿体ない気持ちがした。
人類が途方もない旅をしていることは伏せつつ、この景色だけみんなに見せることができないだろうか??
そんなことは不可能であるとリコにも解ってはいた。
ここにいる9人で秘密を共有している。それだけで満足するしかなかった。
選ばれし神9の面々はヒョースイの部屋を後にした。
例の通路から出ると、まるで存在しなかったかのように今来たはずの通路は消えてしまった。
そこにはただの壁があるのみにだった。
終わってしまった。
少しでも、本当に外に出られるかもと思っていた数時間前がまるで百年も前のように思えた。
ヒョースイのせいで人生観がまるで変ってしまったが、悪い気はしなかった。
「楽しかったよ、ありがとう」
リコは小さな声でヒョースイの部屋がある方に向かって言った。
そうして、先に歩き始めていたジュンたちの後を追い、もう振り返ることはなかった。
「外に出れなくてがっかりか?」
ジュンが言った。
「いやーもっとすごいこと知っちゃったから。正直、外の世界がなくてちょっと安心している。本当は怖かったんだ」
「俺もだよ」
リコたちは日常に戻っていく。
時々あの二度と見る事はない窓の外の景色を思い出しながら。
人類の真の姿を胸に秘め…。
(おしまい)
▼テーマソング的な
※2001年のころの録音です。
『water』
Tell me why.
Why don't you see the forward?
And I know you don't.
Tell me why. Tell me why.
Why don't you make it by yourself.
I'm not your mother.
But comes again.
The thought of water I could not digest comes again.
Tell me why. Tell me why.
Why do you give me the water that I can't not swallow.
Falling love again in the Saturday night.
During the day, waiting for your telephone call.
Falling like a feather.
On palm of your hands, both hands.
The water drives my soul again!!
<訳>
何でなの? 前を向いたら?
そうしてないのは知っている。
何で?どうして?
自分でやったらどうなの?
私はあなたの母ちゃんじゃないの。
だけどまた…
消化できない “水の思考” が再び…
何で?どうして?
なぜ呑み込めない “水” を差し出すの?
土曜の夜にまた恋に落ちて
一日中あなたの電話を待っている
羽根のように落ちる
あなたの両方の手のひらに、両方の手の上に
“水” は再び私の魂を駆り立てる!!