旬杯リレー小説[B]→友音さんの[承]→riraさんの[転]…からの[結]幻想鉄道の夜
みんなで繋げる物語「旬杯リレー小説」
詳しいことは文末に。まずは物語を紡ぎます。
◎起【B】
作者:PJさん
◎承:「夢と目覚めは各駅停車」
作者:友音さん
◎転:星降るエクスプレスに乗って
作者:riraさん
◎結:終着駅の向こう側
作者:大橋ちよ
列車は滑るように美夢郷駅に到着した。時刻は22時半予定どおりの運行だ。
こんな時間に見知らぬ場所に放り出されることに少し不安を感じた菜々だったが、終着駅なら降りる他なかった。
乗客を降ろすと、列車はドアを閉めて引き返して行ってしまった。
菜々は乗って来た電車を見送ると、仕方ないので美夢郷駅の様子を見渡してみた。
美夢郷駅は静かな小さな駅だった。
先ほど見た夢見駅は夜空の中にいるような駅だったが、こちらは湖の真ん中にぽつりと浮かぶ駅だった。
海ではなく湖だ。
満天の星空の下に、どこまでもヒタヒタと広がる真っ黒な水面が続いていた。
ここまで来たら、前にも進めないし、後にも戻れない。
菜々はどうしたものかと駅のベンチに腰を下ろした。
駅にはもう一人の乗客がいた。
先ほど途中で乗って来た男性だった。
男性はこちらを振り向くと、真っ直ぐ菜々の方へ歩いて来た。
そして彼女の隣に腰を下ろした。
男性は見知らぬ人だったけれど、どこか見覚えのあるような人だった。
「ずいぶん遠くまで来ちゃいましたね」
男性が話しかけてきた。
優しい声だった。
菜々が彼の方を見ると、向こうも首を少し傾けてこちらに視線を向けてきた。
その目を細めた柔らかい表情から “いい人” がにじみ出ていた。
菜々は警戒心を解き、この不思議な場所に独りではないことに感謝した。
「よく知らないで電車に乗ってしまって…ここはどこなんでしょうか?」
菜々が言うと、男性はふふふと笑った。
「ここは美夢郷駅ですよ」
…いや…それはわかってるんだけど…。
菜々は声には出さずに心の中でそう答えると、どこまでも続く真っ黒な水面を眺めた。
夜の湖とか海って少し怖い…。
海に行きたかったんだけどな…。こんな夜の湖ではなくて、真夏のギラギラした海。
原稿を書き終えたら少し夏休みを取る予定でいたのだ。
その原稿が煮詰まっている。
今年の夏は休みなしかも…。
「さっきのはくちょう、見ました?」
菜々の思考を遮るように男性が言った。
「ええ、見ました。とても美しかった。背中が虹色に輝いていましたね」
「あれは人々の夢だと言われています。あの光景を目の当たりにすると、特別な夢が見れるそうですよ」
「特別な夢?」
男性は頷くと、すっと立ち上がった。
「そう、特別な夢です。例えばこんな」
言いながら男性はパチンと指を鳴らした。
すると真っ黒だった湖の水面がざわめき出し七色に輝きはじめた。
その輝きはだんだんと強い光となり、水面から幾つもの光の玉が飛び出して来た。
光の玉はしばらく湖の上に浮かんでいた。
菜々は驚き立ち上がり、その玉の数々を口をあけて眺めた。
その一つ一つが菜々に語りかけてくるようだった。
空中に浮かんだ玉は菜々に認識されると、小刻みに震え、順番に勢いをつけて菜々の方へと飛び込んで来た。
光の玉が菜々の体に当たると、バチッ、バチッとものすごい音を立ててはじけた。
菜々の全身に雷に打たれたような衝撃が走り、そして彼女は確信した。
…これは! 閃きだ!!!!
これまで悩んでも悩んでも思いつけなかった数々のアイディアが思考の中にあふれてきた。
それはあの光の玉からもたらされたのと同時に彼女の中から湧き出したものだった。
今までに感じたことのない多幸感が菜々を包み込んだ。
「どお? いい感じ?」
男性が言った。
いつのまにか二人は湖の上空、空高く手を取り合って浮かんでいた。
周りでは光の炸裂が未だ止まず、大変騒々しかったが、男性の声ははっきりと聞こえるのだった。
「最高!! なにこれ?! 最高なんだけどっ!!」
すっかり興奮状態となった菜々は大声で叫んだ。
それを聞くと、男性はいかにも楽しそうにあはははと笑った。
「じゃあ、もう書けるよね。戻るよ」
男性が言うと、菜々の体は猛スピードで上昇を始めた。
それはまるで水底から水面へと急激に浮上するような感じだった。
上空にいたはずなのに、不思議な感覚だった。
《アイディアはいつでも君の中にある。僕はいつでもここにいるよ》
微かに男性がそう言っているのが聞こえた。
自分の身体がすっかり最上層まで上がって来たことを感知すると同時に、菜々は目をあけた。
目をあけると自分の家にいた。
ソファーで眠り込んでいたようだ。
テーブルの上には冷えたカルピルが菜々に飲まれるのを待っていた。
…夢?
起き上がると、さきほどまでまるで先の見えなかった原稿の続きがどんどん出てきた。
菜々は美夢郷駅で会話した男性の優しい笑顔を思い出した。
…ありがとう。使わせてもらうよ。
菜々はよく冷えたカルピルを喉に流し込むと、フンっと勢いよく鼻から息をはき、書斎にもどって原稿の続きを書き始めた。
・・・
二週間後。菜々は千葉の海岸にいた。
ギラギラと照り付ける太陽。
輝く海と、その水平線に浮かぶ白く大きな入道雲。
忘れれない夏を満喫するのだ。
(おわり)
▽旬杯リレー小説 募集要項はこちら
友音さんの美夢郷の物語。
すごく気になっていました。
そして、riraさんが美しい列車の旅を繋げていただいたので、私がこれを引き継ぎたい!!! って思って書きました。
★これはリレー小説なので、これ以外の「結」を思いついた方は遠慮せずどんどんパラレルワールドの「結」を紡いでくださいましね。
銀河鉄道を思わせるこの物語。
幻想鉄道は黄泉の世界ではなく、もっと別の世界に行くんだろうなーと思ってこんな感じになりました。
いかがでしょうか??
追記:最初に折り返し運転ありって書いてあるの見逃してましたっ!
折り返しは浮上にてごめん🙏
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