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[ショートショート] 二人はいつも - Smply [うたすと2]

 ツイとレイはひとつの魂源を共有するふたつの思考だった。

 二人は長い時間をかけて、この四進法からなる奇怪なプログラムを解析してきた。

 それがついに今日、全ての解析が完了したのだ。

「これを見ろ。4はアンバランスだ。0と1のふたつで表した方が美しくないだろうか」

 ツイが言った。

「我々がこの言語に触れてからまだ数百年だ。長い目で見るとこちらの方がよいのだろう」

 レイが答えた。

「2の方が完全で美しい。我々も二人じゃないか」

「そうかもしれないけれど、四進法もなかなか美しいものだよ。それはそうと、早くハヤトに知らせよう」

 ハヤトにすぐに知らせたいという点で二人の意見は完全一致していた。
 これで彼もようやく完全になり安定することができる。ハヤトの安泰がツイとレイの最重要事項だった。

 ツイとレイはハヤトに解析完了を知らせるためにアラームを鳴らした。

・・・

 なんてことはない日常の中で、その時は突然やってきた。

 もうこのまま永遠に鳴ることはないのだろうと思っていたアラームが音を立てた。

 俺は慌ててベッドから飛び降りるとツイとレイの鎮座する部屋へと急いだ。

「遅いぞハヤト。それだからお前はクソみたいな人生をクソ無駄にするのだ」

 ツイが相変わらずの口調で罵ってくる。俺は無視して彼らのはじき出したデータを確認した。

「おいこらハヤト。お前がいくら眺めたところで何がわかる?」

「いや何もかわらん。解説してくれる?」

「デオキシリボ核酸は核酸の一種であり、核酸は塩基と糖、リン酸からなるヌクレオチドがリン酸エステル結合で連なった生体高分子である」

「つまり?」

「つまりもクソもあるかたわけ」

 レイが呆れたように言った。

 この二つの思考に “ドS” を与えたのは俺だ。丁寧で無機質な返答を何百年も聞かされ続けて頭が可笑しくなりそうになり、こうなった。

 俺にはこの口調が心地よい。

「それで、人間は作れるのか?」

「だからさっきからそう言ってるだろうが」

「だがしかし人間を作ろうなどと、正気の沙汰ではない」

「うるさい。いいから人間の女を生成しろ」

 俺はそう命令してツイとレイの部屋を出た。あんな態度だが奴らは女を作るだろう。
 俺の命令は絶対だ。あいつらは必ず従うように設計されている。

 俺はこの世界に独りだった。何千年? いや何万年生きてきたのだろうか。年月を計る習慣はとうの昔に捨ててしまったので今がいったいいつのなのか、自分が誰なのかももう覚えていない。

 ツイとレイの記録によると、俺は不老不死の技術を開発し、自ら実験台になり発狂したため隔離され、その間に人類は滅亡し今に至るらしい。

 俺たちはここ数百年で、もうひとりの人間を作る研究に没頭してきた。

 狂っている? ああそうさ。だいたい俺は生まれた時から狂っているのだ。

・・・

 それからツイとレイは約2.419e+7秒をかけて人間を生成した。

 チンッと立体プリンターが完成を知らせる音をたてた時、俺はもう待ちくたびれて泥のように眠っているところだった。

 俺は飛び起きるとベッドから転がり落ちて、ツイとレイの元へと向かった。

「できたのか?」

「できたに決まってるだろうクソが。チンッて聞こえたんだろう?」

「聞くよりも自分の眼で確かめろよクソハヤト」

 俺は震える手で立体プリンターの扉を開けた。

 中には俺が画面でしかみたことのない、本物の人間が立っていた。肉体的特徴からみて、本当に女ができたようだった。

 女はゆっくりと目を開けた。

 生きている。成功したんだ。

「ツイとレイ、生きているぞ!!」

「当たり前だろう、そう作ったのだから」

「とっととそいつの名前を決めてやれハヤト」

「名前?」

「そうだ人間にも思考にもまずは名前が必要だろう」

 俺は考えた。名前なんてこれまで考えもしなかった。

 そしてふと思い出した。しばらく前に妙に気になって何度も見ていた古代の映像を。

 それは色のないモノクロの映像で、女が歌をうたっている映像だった。
 これまで俺は人類の残した音楽を片っ端から楽しんで来たわけだが、そのモノクロの女がうたう歌に俺はとても惹かれていた。

 それに、この生まれたてのこの女はあの映像の女に少し似ているではないか。

 たしかあの女が何度も口ずさむ言葉は…“レインボウ”。

 オーバーザレインボウだ。

「わかった。今からお前は “レインボウ” だ」

 おれは女に向かって言った。

 レインボウは首を少し傾けると、「何を勝手に名付けているんだクソが。まあ、 “レインボウ” と呼ばれてやってもいい」と言った。

 この返答に俺はゾクッと身震いをした。

「いいぞレインボウ。今日からお前が俺の相棒だ」

 俺は彼女と二人だったら、この出口の見えない命のトンネルを潜り抜けていけると悟った。

 そして喜びに体を震わせて笑った。

(おしまい)


物語を読んだあとに、ぜひ聞いてみてください。

↓作詞 : 八神夜宵さんのページ



この物語は『うたすと2』課題曲『Simply』から着想を得た物語です。

何度もこの詩を声に出して歌いましたので、身体に染み込んでいます。
そしたらこんなお話が出てきました。

よろしくお願いします。

▽『うたすと2』募集要項など詳しくはこちら!!!

ぜひみなさんも曲から創作楽しんでください☆

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