[ショートショート] 株式会社のおと
目の前の赤いランプがまた点灯した。
私は指示通りカラスの鳴き真似を目の前のマイクに向かってやった。
かれこれ一時間以上はこうしている。
職安で特技を聞かれてカラスをやったらここに就職が決まった。
「あの…」
私は隣の男に話しかけた。男は無言で壁の張り紙を指さした。
それにはこう書かれていた。
この世のあらゆる音を作る『株式会社のおと』
君が〇〇の音となる。雑談禁止。
優秀発音者には快楽報酬支給。退職不可。
やばいところに来てしまった。
私は慌てて逃げ出そうとしたが立てなかった。
尻が椅子にくっついていた。
もがいていると、天井のスピーカーから《報酬のお時間です》というアナウンスがあった。
それと同時に、これまで体験したこともないような高揚感が全身を駆け巡るのが感じられた。
私は瞬時にその感覚の虜になってしまった。
だがそれはすぐに終わってしまった。
これが快楽報酬…。
どうしてももう一度欲しいと思った。
私はマイクに向き直ると、赤いラップが点灯をするのを待つことにした。
(422文字)
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