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[ショートショート] 転生林檎 - 幼馴染は輝いていて別世界の人だった

テルテルてる子さんのご友人に捧げます。

 トモくんは足が速くて明るい子だった。

 ミキちゃんはお姫様みたいに可愛い子だった。

 シュウくんは何でも知ってる物知り博士だった。

 私はお絵描きが好きだった。

 幼馴染の私たちは仲良し四人組だった。

 小学校に入ると天才シュウくんは私立の学校に行き会えなくなった。
 ミキちゃんはテレビのお仕事をするようになってあまり学校に来なくなった。
 トモくんはスポーツ万能で人気者になった。

 私は絵ばかり描いて特別仲の良い友達はできなかった。この世界は私の属する場所じゃないと思っていた。

 サッカーを始めたトモくんは輝いていて別世界の人だった。
 たまに登校するミキちゃんは輝いていて別世界の人だった。

 二人とも私には目もくれなかった。

 私たちはそのままバラバラになって交流のないまま大人になった。

 サッカーがうまかったトモくんはナショナルチームに入った。
 ミキちゃんは女優として大活躍だった。
 シュウくんは天才科学者として世界的有名人だった。

 三人とも別世界の人たちだった。

 私は絵ばかり描いているぼっち女だった。この世界は私の属する世界じゃないと思っていた。

 ある日私の元に1通の手紙が届いた。シュウくんからの招待状だった。

 指定された日に指定の場所へ向かうと、シュウくん、トモくん、ミキちゃんも姿を現した。別世界の人が同じ空間にいて認識がバグった。

 シュウくんはみんなが揃うと四つのリンゴを取り出した。

 そのリンゴを見て私は急に思い出した。ここに来るのはこれで何回目?

 私は誰だっけ?

 1回目の時にシュウくんは私たちにこう話した。

 私たち3人は何度やっても二十代で何らかの事故や事件に巻き込まれて死んでしまう。だから救いたいのだと。

 そう、このままにしておくと、今日から二週間後に私?…ユウは先陣を切ってこの世界から離脱してしまう。原因は交通事故だったり工事現場の落下事故だったりいろいろだ。これを皮切りにミキとトモも不慮の死を遂げてしまう。

 シュウくんは私たちを救うために「転生林檎」を作り出し、何十回も人生をループしている。嘘のような話だけど本当だ。何しろ私も既にそれを体験しているのだから。

 「転生林檎」を齧ると望んだ人生を体験できる。記憶保持の有無も自由自在だ。

 転生林檎で最初、彼はユウに生まれ変わった。ユウには絵の才能があり、周りにも認められ人気の絵師になっていたが、自分でその自覚をもっていなかった。この世は自分の属する世界ではないと彼女は人一倍思っていた。常に自分と他人を比べて人生を悲観し、自己肯定感が非常に低かった。ユウの事故死が何らかのトリガーになっているのかと考えたが、ユウの死亡を回避しても他の面々の死亡は回避できなかった。

 続いてシュウはミキに生まれ変わった。彼女は絶対的な母親の元、テレビの仕事をイヤイヤやっていた。彼女は本当はユウみたいに絵を描く仕事をしたかった。小学生のころから絵師として人気のユウに嫉妬をしていた。この世は自分の属する世界ではないと思っていた。しかし母親の圧力が凄まじく、ある時、母親と喧嘩し家を飛び出し挙句に通り魔に刺されて死亡する。もちろん、彼女の死を回避しても他の面々の死亡は回避できなかった。

 最後にシュウはトモに生まれ変わった。彼はサッカーしか能のない自分が嫌いだった。頭がいいシュウを羨ましく思い、テレビに出ているミキに嫉妬して、絵師として人気のユウに憧れていた。そしてサッカー選手としての全盛期に大怪我をして治療のために海外へ渡る飛行機が墜落して死亡する。彼は華やかなフィールドに立っていても常に自分はここにいるべきではないと感じていた。

 シュウは途方に暮れていた。転生はだれか一人にしかなれない。一人ずつを救うことができても全員を救うことは何度やってもできなかった。

 それでシュウは私たちにこの事を伝える試みに出た。

 案の定、私たちは気味悪がってシュウから離れてしまった。

 しかしその後ユウが本当に死んでしまったのでミキとトモはシュウのいう事を信じるようになった。

 そこで三人で林檎を齧り自分自身に転生すると、今度は三人がかりでユウを説得したがユウは信じなかった。

 そこでユウが事故死する前に無理やり全員で林檎を食べて転生を行った。

 これで、ユウも話を信じて死亡回避のために動いたのだが、何度やっても全員を生還させることができなかった。
 必ず誰かが回避を失敗してしまうのだ。

「君たち一度別の人生をやってみないか?」

 そうシュウが提案し、私たちは記憶をまっさらにしてから転生先をシャッフルして全員の人生を体験した。

 誰もがお互いを羨ましく思い、自分の人生に満足していない事を知った。そして、お互いをどれほど憧れの目で見ていたのかを知った。

 ただ、どんな憧れの人生も本人にとってはただの現実でしかなかった。

 私たちは全員の人生を体験し、今日ここに戻ってきた。私たちは林檎を見た瞬間に全てを思い出した。

「どうだった?」

 シュウくんが言った。

 全員黙ったままだった。

「ここに全員分の林檎がある。みんなどうしたい?」

 しばらく考えてからトモくんが林檎を手に取った。

「これまでのすべての記憶を保持したまま、本来の自分として転生したい。今度はうまくいく気がする」

 私もミキちゃんも同じ想いでそれに続いた。

 私たちはせーので林檎を齧った。

 私は本来の自分、ミキとして産まれた。

 母親は変わらず私に女優になってもらいたがった。それも彼女の叶えられなかった夢であったのだと理解ができた。

 いろいろな人生を想像できる今は、テレビの仕事もそれほど嫌じゃなかった。わたしが嫌だったのは母と対話ができないことだったのだ。この人には話が通じないと割り切ったら意外と楽になった。

 私は時々ユウに合って一緒に絵を描いた。彼女ほど上手くは描けなかったが楽しかった。

 トモは相変わらずサッカーばかりしてたが、それでいいと思ったようだった。
 私とユウは彼の一番のサポーターとなった。

 そうして私たちが30歳になった時にシュウから招待状が届いた。

 これまで一度も全員揃えなかった30歳になる春に集まろうとのことだった。

 トモはサッカー教室で子供たちに教えていた。
 ユウは絵師を続けていた。
 私は女優をやめて介護の仕事をしていた。

 シュウは相変わらず奇才だった。

 未だに生き辛さはあるけれど、自分は自分のままでよいのだという気持ちがあった。
 どの人生もこんなものだという感覚が私たちを生かしていた。単に死亡回避するだけではだめだったのだ。

 みんなが集まるとシュウは林檎をとりだした。

「どうする食べる?」

 とシュウが言った。

「いや、いや、冗談だろう?」

 とトモくんが言った。

「うん、冗談だよ。これはただの林檎だ」

 私たちはただの林檎を食べて、この先相変わらず這いずり回るのだとしても、もう他の人生を望む必要がないことを悟ったのだった。

(おしまい)


すみません1000文字に納められませんでした。

テルテルてる子さんの企画です。

調子の悪いご友人に物語で元気を送りたい…という優しさに感銘を受けまして書かせていただきました。

弱っている人にとっては少し刺激が強い部分もあるかもしれません。
その辺の判断が私は鈍いのでメッセージが強すぎたらごめんなちゃい。

ピノキオピー氏の楽曲『転生林檎』の世界観に沿った物語を…ということで、書いてみました。☆ハッピーエンド必須です。

ぜひ曲もじっくり聞いてみてください☆



生まれ変わって何かを得るまで繰り返す…というテーマは以前にも書いたことがあります。
ちょっと長いですが、もしよかったら読んでみてください。
※若干グロ表現あります。

長い文章読めない~!! って場合は、元になった曲だけでも聞いてもらえたら嬉しいです。

なんか宣伝で終ってすみません。。

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