離島 - アンデッド・エピソードファイル [逆噴射小説大賞2024]
今日は月に一度の生存証明の日。
村役場は住民たちでごった返していた。
「このゾンビ野郎!ガン飛ばしてきやがって」
向こうから怒鳴り声が聞こえてきた。
…また仁さんだ。
「どどどどうしましょう…」
バイトの志賀くんが飛んで来た。
様子を見に行くとちょうど仁さんがゾンビの田中さんに掴みかかっているところだった。
仁さんはスケルトンだ。ゾンビと相性が悪い。
俺、田辺健太郎はほとほと参っていた。誰だ簡単なお仕事だとか言ったのは。
左遷先が離島の村役場と決まり、のんびり地方公務員できると思ったのだが。
しかたないな…。
俺は仁さんのむき出しの頸椎に手刀打ちを喰らわした。
仁さんの首がバキッと折れ、バラバラと全身の骨が床に散らばった。
田中さんが「ひぃ」と言った。
「志賀くん、片付けといて」
俺は志賀くんに後を頼むと持ち場に戻った。
仁さんはほっとけば勝手に復活する。
それどころじゃないんだ。何しろ一万人の生存証明を二日間でやらないといけないんだから…。
ここはアンデッドの楽園、不知螺頭島。俺の勤務地である。
EP 1 赤い服の女の子
村役場の朝は遅い。朝は苦手だ。
昨日は最悪だった。五時間押しだぜ。
今日は来所不可者の訪問調査だ。これがまたハードなわけである。
「田辺さん。仁さんから苦情が来てたわよ。何やったの?」
出所するなりマキさんに怒られた。マキさんは同僚の美女である。現地採用なので彼女もアンデッドなのだろう。が、種族は不明だ。
ちなみに志賀くんはグールである。
俺はこれ以上マキさんに怒られるのは嫌なので慌てて訪問調査へと飛び出した。
一軒目の訪問先に行く途中。赤い服の女児が路地を曲がって行くのが見えた。
俺はゾッとしてすぐにマキさんに電話した。
「子供がいる。女の子。赤い服だ」
この島には子供はいない。いるとしたらそれは怪異なのである。
怪異はこの島では駆除対象だった。
(つづく)